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2006年10月10日 (火)

ユナイテッド93 とWTC

私の ユナイテッド93 の感想文は消失したので「M男の映画評論」に頼ります。

WTCを見たばかりですが私も以下とM男さんと同じ感想を持ちました。

「ワールド・トレード・センター」(オリバー・ストーン監督)も観たが、冗長な運びはまだしも、海兵隊員がアクション映画の主人公よろしく振舞う安易な作り方にいたく失望した。死に向き合う人間を扱ったこの2つの作品の間にある決定的な違いは、国家や人種を超えた人間愛、人間の尊厳を視点として有するかどうかだろう。

シネマぶらり観て歩き(92)                ユナイテッド93 

        アメリカ  2001年9月11日。

アメリカ、ニューアーク空港。8時発予定ユナイテッド93便は渋滞のため、42分遅れて飛びたった。 その4分後、世界貿易センター北棟にアメリカン航空11便が突っ込み、炎上した。人々が混乱している最中、今度はボストンからロスに向かったユナイテッド175便がツインタワー南棟に突入した。 これは組織的なテロだと察知した連邦航空局が、全米を飛行中の4200機に、コックピットへの潜入を警戒せよとのメッセージを送信する。

しかし、すでにユナイテッド93便では5人のハイジャック犯が動きはじめていた…。 

この日のことは鮮明に覚えている。見逃していた「タイタンズを忘れない」(「ぶらりNo.32 」)のリバイバル上映を観て、帰宅した直後だった。テレビは「NHKニュース」が世界貿易センターを映し出していた。少し前、北棟に飛行機が衝突したという。

ビルから黒煙が昇っていた。事態が飲み込めないまま見つめていた時(午後10時3分)、画面左方に飛行機が現れ、南棟に閃光が走った。 「また、飛行機がぶつかったようであります」というキャスターの声にはどこか緊張感がなかった。「タイタンズ」は1970年代初頭、ヴァージニア州の保守的な町で白人と黒人の統合高校のフットボールチーム「タイタンズ」が差別を乗り越え、地区大会で優勝する話である。映画はヘイト・クライム(憎しみが起こす犯罪)をなくす可能性を示唆し、心地よい余韻に浸りながら帰宅した私には、眼前で起きた40名の乗客とクルーの死を現実のものとして受け入れることができなかった。  

「9.11」を分岐点に世界が大きく変わった。疑惑の開票で大統領の椅子を獲得したブッシュ・共和党は相変わらず不人気をかこっていたが、「同時多発テロ」以降、国民に「新しい恐怖」の到来と正義のたたかいを訴え、ただちにアフガンを攻撃した。

そして、2003年イラクへの「先制攻撃」へと突っ走った。あれから5年、イラクに大量破壊兵器があるとしたのは誤りだったとアメリカ政府は正式に謝罪した。

アメリカを支持したイギリスのブレア首相も謝罪した。しかし、日本政府は今でも戦争支持が正しかったと繰り返している。そして、「誤り」によって占領されたイラクでは毎日のように戦争中より多い犠牲者を生んでいる。この5年間に世界の人々はなにを学んだだろうか。

「ユナイテッド93」は待っていた作品だった。

しかし、館を出て、名状しがたい気持ちに囚われた。無力感や虚無感のグレー一色で蔽い尽くされた訳ではない。

脱力感はあるものの、何かほっとした、救われた気持ちもあった。

この不思議な感覚が一体何なのか分からないまま、私はいつものように性急に結論を出さずに頭のなかで自然に発酵するにまかせた。

作品の結末を観客は知っている。乗客が助かることはありえない。事実、ありえないまま、映画は終わった。 悲劇の極みを描いたにもかかわらず、救われた気分を感じたということは、この作品のなかの何かが私に肯定的なものを投げかけたからだろう。

かつて、怖い夢を見たことがある。私は閉所も高所も怖い。

一つは炭鉱の落盤で真っ暗闇に閉じ込められた状況。外部と遮断され、狭い空間で酸素も残り少ない。残された時間は短い。世界貿易センターに似た夢も見たことがある。火災でホテルが炎に包まれた。逃れる手段はなく、取り残されたベランダに火の手が迫る。もう飛び降りるしかない。地上の人々が豆粒のように見える…退路を絶たれた恐怖。

日本では怖い夢のことを悪夢と呼ぶ。 ユナイテッド93便の乗客たちは他便の乗客たちと違い、まもなく機の運命を知ってしまう。同じ飛行機でも尾翼が吹き飛んで制御不能に陥った日航123便とはまるで違う。機長には生きようという意思がない。

どうすることも出来ない乗客を乗せたまま、93便は飛び続けた。怒り、諦め、絶望が数十分の間に交錯し、誰しもこれが悪夢であって欲しいと祈ったことだろう。「3人の男にハイジャックされたの」*実際は4人と言われている。「愛していたわ」犯人の目を盗んで携帯電話で家族と話す。しかし、乗客たちはこのまま死ぬよりは、残された時間を力の限り、努力して生きようと思い始めた。互いに連絡をとりあい、機を取り戻すことを決断する。幸い、元パイロットも乗っていた。  少女が電話する。

「みんなで協力して飛行機を取り戻すって。親切な女の人が電話を貸してくれたの」 そして、「いくぞ」の声とともに男たちが突入する。この場面、観客はもはや、この作品にモデルがあることなど忘れて、男たちと一体になる。私は思う。

先に「救われた気分」と表現したのは、この30分間の乗客たちの心の変化から来るのではないかと。そして、それは私たちにとって、生の本質に関わっているからではないかと。 何かを社会から得たり、何かを社会に与えたり、人はそれぞれ生の充実度をはかる物差しを持っている。それは、個々の人間が生きる過程で身につけてきた価値観と言ってもよい。しかし、同時に、歴史的には人間として共通の価値観を形成してきたとも言えるのではないか。

アウシュビッツなど3つの強制収容所で死と隣り合わせの経験を持つ精神科医、V・E・フランクルは言う。避けることの出来ない運命にたいしてどのような態度をとるかは、人間に与えられた生きる価値(態度価値)のひとつだ。

人間は苦境においても自分自身を実現できると。(「意味への意志」春秋社 2002年) 実際に最期まで望みを捨てず、生きようとした例は沢山ある。もう数年前になろうか、私がみた悪夢のような例がNHKで放映された。元鉱夫が落盤を機に閉ざされた廃坑を訪ねるドキュメンタリー番組があった。旧坑道を掘り進み、落盤現場に達して彼が見たのは、災害時のマニュアルどおりに整然と陣を組んで救援を待つ仲間たちの遺骨であった。

すでに老境に達した元鉱夫は語り終えぬまま、激しく嗚咽した。タイタニック号が沈む時、専属楽団の指揮者ハートレイが沈没までの1時間半、演奏を続け、救助を待つ乗客たちを励ましたのは有名な話だ。足元まで海水に浸りながら、最後の曲目の賛美歌を奏でると、甲板や海に浮かぶ人々の間に唱和が起こったという。

93便の乗客たちは生の最期の瞬間まで自らの態度に責任をもった。ハイジャック犯との激しいたたかいに先立ち、胸に十字を切ったことだろう。しかし、機は日本時間午後11時3分、ペンシルバニア州シャンクスビルの畑に墜落。他に一人の巻き添えも出さなかった…。 ポール・グリーングラス監督は抑制のきいた演出でこの作品を亡くなった乗客へのレクイエムとしている。監督の制作姿勢に共感し、実際にその日、管制官などの業務にあたった人々が自分自身の役で出演しており、作品に演出を超えたリアリティをもたらしている。

そして、この作品で留意すべきことは、監督は乗っ取り犯をただのテロリストとして描いていないことだ。映画は犯人となる青年の神への祈りから始まり、犯行を信念にかられた行動として描く。乗客の祈りとハイジャック犯の祈り、監督はこの2つの祈りが高い次元で真に成就されることを願っているのではないか。一部に「テロとのたたかい」を訴えたなどの受け止め方があるが、私には皮相的に思える。

同じく「9.11」を題材にとった「ワールド・トレード・センター」(オリバー・ストーン監督)も観たが、冗長な運びはまだしも、海兵隊員がアクション映画の主人公よろしく振舞う安易な作り方にいたく失望した。死に向き合う人間を扱ったこの2つの作品の間にある決定的な違いは、国家や人種を超えた人間愛、人間の尊厳を視点として有するかどうかだろう。グリーングラスの意図を受け止め、改めて犠牲となった人々のご冥福を祈りたい。                                     (M男)

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» 映画「ユナイテッド93」をみて [観劇レビュー&旅行記と日記]
見てきました。 いわゆるネタバレ的なことも書きますが、落ちの付いた映画ではないので許されるでしょう。 ドキュメントムービーと言えるでしょう。  映画に描かれている『機内の状況』は、全て再現映像ではありますが、乗客や乗員が家族に電話した記録や管制塔の記録などを元に再現しているので、臨場感(というような表現が許されるかどうか解りませんが)があります。  幸せな旅行が、ハイジャック犯の決起の瞬間�... [続きを読む]

» マクローリン & ヒメノ [観劇レビュー&旅行記と日記]
オリバー・ストーン監督が取上げた 「ワールド・トレード・センター」(WTC)   を見た。 他のサイトでは厳しい評価もあったが、私は評価したい。 「ユナイテッド93」   では、主として機内で闘った乗客の視点から描かれていたが、 こちらでは、現場で救出活動中に行方不明となった警察官の家族 の心配し、動転するさまを描いている。 映画の主人公 マクローリンとヒメノ は最後に満身創痍ながら �... [続きを読む]

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