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12・7ファスレーンセミナーで講演される豊島先生

1月7日に「ファスレーン365」の一環として大学人による封鎖(Academics' Trident Seminar Blockade)が(英国ファスレーンで)行われます.
これは,セミナー(学会)と封鎖行動(フィールドワーク)を兼ねたもので,基地ゲートを塞ぐ形でセミナーが実施されます.発表者は逮捕されるまで講演を続けます.セミナーのテーマは「大量破壊兵器と大学人」です.

参加者にはペーパーの提出が求められています.一参加者として参加する佐賀大学豊島教授の提出ペーパーを,ブログ読者の皆さんに一足先に公開させて頂きます。
ご意見あればお願いします。

豊島先生の健闘を祈ります。

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Curbing Militarism in Japan and the Role of Academics
日本の軍国主義化防止と大学人の役割 (日本語版) 日本の軍国主義化防止と大学人の役割

submitted to
the Academics' and Scholars' Trident Seminar Blockade at Faslane
7th of Jan 2007

→ 正式版(英語),別配布文書:数学における平和教育

佐賀大学 豊島耕一

二ヶ月前,日本の公共放送NHKは湯川秀樹博士の核兵器廃絶のための活動を特集した[1].湯川・朝永宣言(1975)*で,それまでパグウオッシュ会議の中でさえ主流であった「核抑止論」を否定し,廃絶を主張したことなどを紹介していた.最後の,ホーム・ムービーのような映像が印象に残る.その中で,湯川は公園を歩きながら,京都弁で次のようにしゃべる.「なんでこんな当たり前のことがみんな分からないのだろうか,みんな気付くのが遅い,そう思いますね.」

日本は,第二次大戦の惨禍と,これを侵略者として戦ったことの反省から,戦後,平和のためのいくつかの重要な法律や文書を作ってきた.それらは,まず九条に代表される平和憲法であり,それを教育において基礎づけるための教育基本法(後者はつい半月前に破壊された.これについては後で述べる)である.我々科学者にとっては,「科学界における九条」とも呼ぶべき「戦争のための科学に従わない声明」**(日本学術会議,1050年)や,軍関係組織との協力関係を否定した日本物理学会の「決議三」***がある.今日薄れてきたとは言え,このような,軍隊それ自体を悪とする考え方は,第二次大戦の戦勝国には見られないものであり,その意味で人類的にも貴重な財産である.

しかしこれらの文書が省みられる機会はとうの昔から少なくなっている.日本物理学会のサイトで上記の文書を探し出すのは極めて難しく,日本学術会議に至ってはこの声明文を掲示さえしていない.このため若い研究者はもちろん,中堅の世代でもこれらの文書の存在自体すら知らない人が多数と思われる.冒頭に紹介した,湯川のような活動の跡継ぎをする学者はますます少なくなっているのではないかと危惧される.

2004年に実施された国立大学の「独立行政法人化」は,大学の教育や研究にまで文部科学省が介入出来る可能性を認めた制度である.国立大学にとっての「大学の自治」は,これまでも実質的に浸食されて来たが,本格的に危うくなっている.また,つい半月前に国会を通過した教育基本法の改正は,60年間改正されなかった日本の公教育の根本法を,権力を抑制するための法から,教師,生徒,そして親までも縛る法に180度転換させたもので,公教育全体の抑圧性を強め,民主主義の基礎を掘り崩す恐れがある.これは戦前の日本が歩んだ道と同じパターンであると多くの人が警告している.憲法九条の行方も楽観できない.

これらの改悪はほとんど組織的な抵抗もなく行われ,反対運動の前面に立ったのは専らアマチュアばかりだった[2].政党や教職員組合などの「プロ」による反対運動のセンターを欠き,そのため阻止のための効果的な戦略を持たなかったためだ.

民主主義の制度の下で半世紀以上過ぎたが,メディアと教育によって(基本法の改正前でも),若者の社会と政治への関心は低下の一途をたどっている.戦後の民主的改革を担い,維持してきた進歩的な活動家たちというのは,そのほとんどが戦前はノンポリないし軍国教師・軍国少年であった.彼らがアジア太平洋戦争での敗北という破滅的な経験を経てリベラルや左翼に変わったのと全く同じように,現在の若者も同じコースをたどる他は変われないのではないか,などと悲観的な予想にとらわれてしまう.しかしもちろん戦前との大きな違い--言論・表現の自由と,インターネットという情報手段,それに幅広く可能になった国際協力など--がある.

どのようにしたら,戦争のような社会的カタストロフィーを通じてではなく,穏健な社会プロセスを通じて民主主義を回復,強化し,平和な社会を作るかという課題が多くの分野の人々に課せられている.日本の場合,その戦略を練る中心的なプロ集団を欠いていることが大問題だ.憲法九条を強く擁護する政党も非常に少数で,統一戦線を作る動きも弱々しい.

我々高等教育に携わるものは,当然その職務を通じてこれに貢献しなければならない.その中で次のことを強調したい.

1)あらゆる授業において,その授業に関連して,あるいは無関係な「脱線」として,社会的な問題に触れ,学生の関心を呼び覚ますこと.

2)学部において,平和や軍縮についての,また大学院においては,論文盗用問題など一般的な科学者倫理だけでなく,科学者の社会的責任に関する授業を開くこと.

3)社会的責任として,上に述べた,真に革新的な統一戦線を形成していくための,建設的な提案と,そのための,あらゆる党派から独立した徹底的な批判活動とを,知識人として積極的に行うべきである.

これらのほとんどは,ユネスコが98年に発表した「高等教育世界宣言」でも強調されていることである[3].いずれも当たり前で陳腐なことかもしれないが,それらがあまり意識的に取り組まれていないことが問題だろう.

私は,冒頭で紹介した湯川博士のビデオを二つの授業で学生たちに見せた.ほとんどの学生が,湯川の物理学の業績のことは知っていたが,反核運動,平和運動のことは知らなかった.このような情報に触れる機会が学生たちから奪われていることが最大の問題だ.メディアは,松坂投手のメジャーリーグ球団との巨額の契約金の話ばかりに若者の関心を誘導する.大学の教員は,どのような科目の授業であれ,これに対する「リメディアル」教育を実施すべきである.大学の場合,学生はわずか数年後には実社会に出るので,この「リメディー(治療薬)」には即効性がある.

[1] シリーズ「ラストメッセージ」の第2集.
http://www.nhk.or.jp/special/onair/061106.html

[2] 独法化反対運動の英語サイト
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znete.html

[3] 高等教育世界宣言
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/UniversityIssues/AGENDA21.htm
日本語訳http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/UniversityIssues/AGENDA21.htm

該当部分
序文11節
新たな千年の入り口に立ち、平和な文化の価値と理想が広がり、その目的のために知的共同体が動員されることを確実にすることが高等教育機関の義務であると認識し、

第二条 倫理的役割、自律、責任および期待される任務
(b)内省、理解、行動を促すために社会が必要とするある種の学術的権威を行使することによって、倫理的、文化的および社会的問題について完全に独立に、そしてその責任を十分に自覚して発言する機会を与えられ、
(d)UNESCO憲章にうたわれているように、平和、正義、自由、平等および連帯を含む普遍的に受け入れられている価値を擁護し積極的に普及するために、知的能力およびその道徳的名声を行使し、

* 湯川・朝永宣言(1975)
http://www.pugwashjapan.jp/y_t.html

** 「戦争のための科学に従わない声明」
http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/UniversityIssues/scjd1950.html

*** 日本物理学会の「決議三」
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/topics/ezawa50/gakushikai-7.html

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大津留さんこんばんは。TBさせていただきました。

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