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2007年5月16日 (水)

王室のあり方についてのマイルドな批判(クイーン)

恒例のM男さんのシネマぶらり観て歩きです。
今回は「クイーン」

この評論は英国の「クイーン」ではなく日本の皇室について書いています。

天皇に関する日経のスクープ記事にもふれブレアさんのことにも触れ社会性の高い評論となっています。

ではどうぞ・・・・

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(99)シネマぶらり観て歩き

               クイーン
                                 英仏伊合作

1997年5月、イギリス総選挙で労働党が大勝し、43才の若きトニー・ブレア(マイケル・シーン)が第73代首相に就任した。ファースト・レディとなった妻シェリー・ブース(ヘレン・マックロリー)は,女王エリザベス2世(ヘレン・ミレン)に謁見するが王政廃止派の彼女はその格式に苦笑する。8月31日、ダイアナがパリで「事故」死した。女王はチャールズ皇太子(アレックス・ジェニングス)とは一年前に離婚し、民間人となったダイアナに弔意を示す必要はないと沈黙する。皇太后(シルヴィア・シムズ)や夫のエディンバラ公(ジェームズ・クロムウェル)らもこれに賛同する。しかし、ダイアナを惜しむ国民の声は日毎に高まり、沈黙し続ける女王に世論の批判は大きくなる。若きブレアは国民と王室が離れていくことに危機を感じる…。
観終って、様々な感慨を抱く。イギリス王室の現状、日本の皇室との違い、政治家とくに首相と王室の関係。密着して描く王室一家の日常には説得力がある。
映画には王室だけでなく、ダイアナやその家族、ブレア一家が実名で登場する。「キネマ旬報」(2007年5月上旬号)を読むとヴェネツイア国際映画祭には多くの弁護士が潜入したとの噂がたったという。この種の作品には弁護士が絡むことはよくあるとフレアーズ監督が涼しい顔で答えている。その後、どこからもクレイムがついたとは聞かないので許容範囲内の描かれ方であったのか。
日本人の皇室観は宮内庁のフィルターを通した身辺記事と画像で知るのみだからひどく貧弱だ。少し、踏み込んで発言したり、書いたりしようものなら宮内庁記者室からは締め出され、右翼からは攻撃される。10年前の本島長崎市長狙撃事件は天皇の「戦争責任」発言が原因だった。
2006年7月20日に「日経新聞」がスクープを放った。故富田朝彦・元宮内庁長官が残した「富田メモ」(日記、手帳)にもとづいて、昭和天皇が昭和63年の靖国神社へのA級戦犯合祀に不快感を示したと1面トップで報道した。この企画は2006年度新聞協会賞を受賞した。しかし、右翼筋や政治家からの記事に対する攻撃には激しものがあり、同社は外部有識者を中心に構成する「富田メモ研究委員会」を設けてその真実性を再確認した。日本の皇室をめぐる言論は未だに自由を得ておらず、声を出しにくくする見えない力のもとにある。
それでも、近年少しずつ、皇室内の模様が知られるようになった。2004年5月10日、皇太子が欧州歴訪前の記者会見で「雅子のキャリアや人格を否定するような動きがあった」と発言したことは記憶に新しい。皇室といえども生身の人間、社会や国の状況を反映してさまざまな葛藤、軋轢があるのは当たり前のことであろう。

さて、ドラマはブレアとクイーンの関係をタテ軸に、両者の間に流れる葛藤、心理の彩を描く。ブレアが初めて女王に謁見するシークエンス。ブレアに扮するマイケル・シーンの初々しさ、威厳を見せようとするクイーン。まるで、母と出来のよい息子のようである。儀礼を通り越した感情が流れる。しかし、この感情はダイアナの死後、世論が沸騰しゆく1週間の間に変わっていく。
ダイアナの死を民間人のものとして無視したい女王に王政廃止支持が国民の1/4に上り、国家の危機を覚えるブレアは哀悼の意をあらわすことを進言する。重大な局面にあって、立場を異にする二人に緊張関係が高まる。のめり込むブレア。筆者に最も印象深かったのは、女王を援助するブレアに妻シェリーが“嫉妬”する場面である。この構図は新鮮であった。
女王には守るべき格式と永い伝統がある。ブレアには国内外への影響を考慮したうえでの政治的思惑がある。二人はまず、その枠組みのなかで役割を果たさなければならない。しかし、役割を担うのは人間である。枠組みや役割との葛藤もある。女王と王室一家は結局、ブレアの忠告を受け入れて国民へのメッセージを発表する。
女王を変えたのは何だろうか。人は立場や思想が異なっても、他人と響きあうことがある。その本質は人間が持つ志、誠実さのようなものではないかと思う。職務への忠誠心にたいする尊敬、互いの立場への想像力が深いところで二人に共振を呼び起したのであろう。作品はブレアの視点から、そこに到る心の襞を描いて人間エリザベスを浮かび上がらせる。外では常に威厳をたたえる女王だが、本作ではユーモアを解し、4輪駆動車を操る女性としての一面も描かれている。女王はタフさを兼ね備えたイギリス国民の母なのだ。
それでは単なるクイーン賛歌なのかということである。なるほど、苦悩する女王を描いたという意味では従来の王室物を超えているが、私が注目したいのは映画が黙示する歴史的な見地である。それは何かというと、「制度」と「現実」の矛盾・葛藤と変化の方向を示唆していることである。半世紀前なら、王室はダイアナの死を民間人のものとして無視することはできたであろう。しかし、ダイアナはブレアがpeoples Princesと表現したほどの存在である。国民が許さなかった。宮殿の前に手向けられた無数の花束が王室のしきたりを変えたのである。映画ではクイーンの内面描写に焦点を当てているが、冷静に見れば王室のあり方についてのマイルドな批判ともなっており、このあたりをスティーヴン・フリアーズ監督は実に上手く捌いている。
* 同監督は左翼で知られ、「ぶらり」No.37 (2002年3月)に第二次世界大戦前夜、リバプールにおけるファシスト党の活動を告発した「がんばれリアム」がある。
「見てきたような嘘」という慣用句がある。この作品はまさにそうだろう。だが、嘘といっても悪意のものもあれば、生活に潤いを与えるものもある。この作品は後者だ。
2007年アカデミー賞でヘレン・ミレンが主演女優賞を受賞した。最近もこの作品の話題はことかかず、女王がヘレン・ミレンを王室のお茶会に誘ったが出席を断ったなどと伝えられている。一方、ブレアは従来の労働党を否定した「第三の道」を打ち出して一時、支持率75%を誇ったが、アメリカのイラク戦争支持が仇となって凋落し、この6月に辞任する。
日本の皇室は100年後とは言わないまでも、50年後、果たして現在のイギリス王室の姿に近づいているだろうか。
                                  (M男)

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