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五線紙にのりそうだなと

短歌研究2007・10月号 「現代の相聞」から

16人が近作三首と私の好きな相聞歌三首をあげている。
私の好きな相聞歌三首から一つの歌を紹介します。

五線紙にのりそうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声 
小野茂樹「羊雲離散」

君の声が五線紙にのりそうだというのは楽しげな感じが伝わると同時に音楽に関わる人独特の捕らえ方だと思った。
小野茂樹18歳の時の歌です。彼は昭和45年に38歳でなくなっています。
存命ならば今年は75歳になられたはずです。

この歌は松坂弘と甲村秀雄のふたりがあげています。
松坂弘はこう書いている。

「上の句の「五線紙にのりそうだ」という呟くような表現が大変にショックだった。 やはり目から鱗の落ちる思いだった。今の世の中殺伐としていて「恋」などという言葉も私語になる運命を目前にしている気がして不安に思うのは私だけだろうか。」

地中海の 南 純子はこの歌についてこう書いている。

私にとって『小野茂樹』という歌人に出逢えた事は、高い山を見つけたようなものです。今ようやく裾野に辿り着き、その山の険しさに目を見張っているところです。冒頭に掲げた歌は、山に続く木々の中に、萌え始めの柔らかな緑の葉に覆われた若樹を思わせ、この歌を手がかりに、難所の多い高峰を目指し歩を進めていければ、というのが今の私の願いです。  歌人の望みは「論じられるより愛誦されること」でした。多くの人が歌人小野茂樹と遺された短歌に魅了されています。私もその中の一人として、心惹かれる歌の数々を、口誦みながら、歩みの励みにしたいと思っております。
『地中海』2004年 1月号   小野は『羊雲離散』の覚え書きで次のように語っている。

 

ぼくは短歌に自己抑制を課しすぎているかもしれぬ。表現における際のリズムは、増幅器とならずに整流器としてはたらいていることが多く、一首一首を断絶し、それぞれ孤立している。しかし、日常会話の一節でさえ完結しがたい日々に、何ごとかを言いおえる世界がどこかにあっていい。その意味でぼくが短歌に求めるのは、みずからに断念を強いる明快な仮説である。

このうまずたゆまずこの「整流器」としての短歌を追求して行きたいと思う。

小野茂樹はこの歌が有名である。

 あの夏の数かぎりなきそしてまたたつたひとつの表情をせよ

ここに傾斜(143首)がありますので紹介しておきます。
 小野茂樹初期作品「傾斜」
― 地中海歌集第1『群』(1958年地中海社刊)より ―
) 

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コメント

コミュニストさん
コメントありがとうございます。

短歌評論についてのコメントは少ないので嬉しいです。

久我田鶴子さんの歌はあまり知りませんが興味を持ちました。

>歳かさねとほくなりたり青春を歌読み詠みてあの日に還へる

短歌の青春性を感じさせる歌だと思います。

あの夏の記憶をあざやかによみがえらせる
 短歌というはこの歌にあり 公彦

小野茂樹については、久我田鶴子『雲の製法 小野茂樹ノート』(砂子屋書房1996年刊)が、短歌についての考え方など、結構参考になりますね。
久我氏は「あとがきに代えて」の中で、「あの夏の…」について、次のようにまとめています。

「あの夏の」は、一首になったとき、すでに作者の手から離れて、読者ひとりひとりの「あの夏」になってしまっている。そして、続く「数限りなく」で、今は思い出となった数々のショットが瞬く。それは、ゆるやかな「そしてまた」に抱きとられ、「たった一つの」と、ある強い印象を与える一つのショットを妬きつけ、「表情」の中へ回収されていく。青春の日に追いかけた人のたくさんの表情、中でも鮮やかな一つの表情―過ぎ去った日々がショットの連続としてよみがえる。歌になるときは作者個人の体験だったかもしれないが、作品となり読者の手にわたった瞬間に読者のものとなってしまう、普遍的とも言える青春群像がここにはある。

納得・納得です。まだまだありますが、長くなるのでオワリます。

ところで久我短歌は青春の清々しさを感じさせてくれる短歌が多いですね。巧いと思います。また、コミュニスト自身の青春の日々を甦らせてくれます。不思議です。そこで一首詠んでみました。

歳かさねとほくなりたり青春を歌読み詠みてあの日に還へる

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