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M男さんの映画評論 今回は 「4分間のピアニスト」

ハリウッドの計算づくの泣かせる映画(彼らは試写を経て、エモーションを高めるために映画を容易に作り変える。ニューハンプシャー州予備選で逆転勝利したヒラリー・クリントンの涙はハリウッド関係者の指南だと私は確信している)とは一味違ったドイツ映画の新しい波に注目する。

2007年度ドイツアカデミー賞では8部門でノミネートされ、見事作品賞と主演女優賞に輝いた作品。
たまにはハリウッド映画でなくドイツ映画を見よう。

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(107)シネマぶらり観て歩き

            4分間のピアニスト
                                    ドイツ

80歳になるクリューガー(モニカ・ブライブトロイ)は、60年以上女子刑務所でピアノを教えている。机を鍵盤代わりにして指を動かす少女ジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)を見つけ、秘めた才能に驚く。人に裏切られ続け、自損行為を重ねるジェニーを見て、彼女の才能を花開かせようと所長を説得してピアノのレッスンを始める。が、2人には卑劣な妨害が加えられる。コンテストの決勝が迫るなか、ジェニーは暴力事件を起こしてピアノを禁止され、クリューガーも解雇される…。
 1年間にドイツ映画を3本見たことになる。「善き人のためのソナタ」(07年3月、「ぶらり」No.97)「ブラックブック」(07年4月、イギリス・オランダ・ベルギーと合作)と今作品である。「ブラックブック」はいま一つ心に迫らず、書きかけたままにしている。今回も似た感覚に囚われた。
「善き人」評で「サスペンスとハードボイルドが融合したようなこの映画は第一級のエンターテイメントにも仕上がっている」と述べた。仕掛けの大きさでは「ブラック」が上回っている。「善き人」において、観客は秘密警察・盗聴員ヴィースラーの心の葛藤に思いをはせたが、「ブラック」はナチスとたたかうレジスタンス内での裏切りが最後まで続き、私には手の込んだ犯人探し映画のように思えた。ある評論家が「ナチス=悪、レジスタンス=善」の図式を否定した「ポストモダン」の作品と書いていた。ismのことはこの際、横に置くとしても、この言い方で何か新しいことを言ったとも思えない。重要なのは表現しようとした主題であり、それが観客の共感を得たかどうかであろう。
映画は医療機関の評価に良く似ている。どんなに最新技術を駆使しようとメディア露出度が高かろうと、それだけでは持続的な集客力は作れず、決め手は総合的満足度としての「口コミ」である。案の定、「ブラック」はレジスタンス運動に新たな視点をもたらした作品としては浸透しなかった。
さて、今作では同性愛、殺人などそれぞれ負の人生を背負っている二人が刑務所で出会う。接点はピアノだった。互いに対立しながらも、当局や看守の妨害を撥ね退けてコンテスト決勝に進んでいく。ピアノを止められ、脱獄するジェニー。迫る演奏時刻、追う警察。遂にコンサート会場は警官で取り巻かれた。舞台には渾身の力で弾くジェニーの姿が。この息詰まるラストシーンは松本清張原作の映画「砂の器」の臨場感に似ている。
「囚われの身から自由へ」の希求は古くは「パピヨン」、やや近くは「ショーシャンクの空に」で描かれたテーマだ。
しかし、今作品が先にあげた作品群を越えたかというと私は疑問を持つ。
それは何故か。二人の内面描写が説明的に流れ、奥行きに乏しいからだ。ナチス時代にクリューガーの同性愛の恋人が弾圧されたことやジェニーと養父の忌まわしい関係もエピソードで挿入されている。しかし、淡々としすぎて心理的に迫る力が弱い。
外部の設定とも関係している。二人は残された人生を燃焼させようとしているが、それを妨げる障壁が弱い。「パピヨン」や「ショーシャンク」が作り出した絶望的な状況がこの作品にはない。スティーブマックイーンはけちな金庫破りをやっただけだが、仲間の裏切りによって南米ギアナに送られ終身刑となる。動物以下の扱いに耐え、ゴキブリを食べながら、ついに紺碧の海原へと飛翔したあの爽快感や「ショーシャンク」において無機質な収容所の上の青空に響いた「フィガロの結婚」の神々しさ(私はこれを「ぶらり」に何度書いたことだろう)が今作品にはない。それらは、観るものの魂を根底から揺さぶった。
パンフにクリス・クラウス監督へのインタビューがある。
― 一番描きたかったことはなんですか。
「まず、ストーリーができて、それが何を意味するかは、あとからはっきりしてくる。本作の個人の自由というものに強く関わっていると思う。そして、自由が最もその効果を表すのは、人間にとって最も非実利的な領域なのだということが次第にわかってきた。つまり、芸術を創造したり愛したりする行為において、自由はなくてはならないものなのだ。これが、本作の主題だと思う。人は内なる自由にいかにして到達するのか、また、どうしたらその手助けができるのか、ということを語っているのだ」
 ……
 私は監督が述べていることを否定しない。人は実用的なもの(持つこと)以上に実用的でないもの(あること)を大事にする存在だ。山田太一が書いた「岸辺のアルバム」は1974年の多摩川洪水で家とともに流されたアルバムを悔いる実話をヒントにした家族と時代のあり方を見つめた傑作だった。
今作品においてはピアノがその役割を果たし、意図したテーマを実現するはずであった。もし、諸々の重層性を終盤の美的世界(ラストは歌舞伎の大見得である)に収斂させていくことに拘り過ぎたあまり、結果的に内面の凝縮度が薄められたとしたら残念なことだと思う。
 とは言え、ハリウッドの計算づくの泣かせる映画(彼らは試写を経て、エモーションを高めるために映画を容易に作り変える。ニューハンプシャー州予備選で逆転勝利したヒラリー・クリントンの涙はハリウッド関係者の指南だと私は確信している)とは一味違ったドイツ映画の新しい波に注目する。
クリューガーを演じたモニカ・ブライブトロイとジェニーを演じたハンナー・ヘルツシュプルングが好演。ハンナは1200人のオーディションを勝ち抜いたまったくの無名女優だそうだ。2007年度ドイツアカデミー賞では8部門でノミネートされ、見事作品賞と主演女優賞に輝いた。
                                                        (M男)

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