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2008年2月10日 (日)

日本映画の一つの到達点(母(かあ)べえ)

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M男さんの映画評論。
今回は話題の母(かあ)べえ
私は、まだ見ていませんが今年のベストテンは間違いない感じです。

M男さんによると
・キューポラに次ぐ小百合さんの出来栄え
・10歳の子の母親に違和感がない。
・吉永小百合はきっと山田洋次監督の心の恋人
そして
・日本映画の一つの到達点を築いた作品

辛口のM男さんがここまで絶賛するのは珍しい

吉永小百合はきっとM男さんにとっても心の恋人?

ちょっと年の差があるかな・・・・

無駄話はこれ位にして評論です。
(ネタバレあります。)

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               母(かあ)べえ
                                      邦画
日中戦争が激しくなり、列強の緊張が日増しに高まっていた頃、東京の郊外に住む野上家は貧しいながらも睦まじく暮らしていた。ドイツ文学者の滋(坂東三津五郎)、妻・佳代(吉永小百合)、長女・初子(志田未来)、次女・照美(佐藤未来)の4人家族はお互いに「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合っていた。しかし、昭和15年2月、滋が戦争反対を唱えた罪で検挙されてから生活が一変する。母べえは獄中の滋を援助しつつ、働きに出た。そんななか、時折、滋の教え子・山崎徹(浅野忠信)が訪ね、一家の手助けをした。野上家にはその他、滋の妹久子(檀れい)や佳代の叔父、仙吉(笑福亭鶴瓶)が暫く、滞在した……。
映画が始まると、時代の重苦しい空気がスクリーンから垂れ、館内に漂う。野上が逮捕された後、母べえは努めて健気に振舞い、子どもたちの不安を払う。観客はつましく生きる野上家と一体になり、父べえの帰宅を待つ。時折、不器用な山崎が醸し出す笑いで観客は一息つく。しかし、笑いは悲しみを増幅する。あちこちから嗚咽が漏れ、最後は、オペラ歌手佐藤しのぶの祈りに似たソプラノに乗せて父べえからの手紙が朗読されて終わる。
照明が点る。館内には母べえとともに生きた人々の気が満ちている。声がでない。やがて、通路を人の列が埋めた。皆一様に泣きはらしている。しかし、その顔には悲しみと言うより、魂を揺さぶられた人が込めた決意のようなものがあった。
「何もなくても母の手があった。悲しくても母の胸があった」
ポスターには親子の情愛とくに母の愛が強調されている。が、主題ははるかに親子や家族を突き抜けている。映画は戦争という時代の狂気に踊らされた人々とそれに表面は従いながらも、人間的自由を求め、助け合う人々の二つの姿を描き出す。
まずは、人間の愚かさである。昭和12年7月、盧溝橋事件を機に本格的な日中戦争に突入するや、9月「国民精神総動員運動」が始まり、人・物・言論のすべてが戦時体制へと動員された。弾圧されたのは進歩的な雑誌、執筆者だけでなく、風俗への介入とともに「女子」の「貞操観念」を乱すとみなされた婦人雑誌までが取り締まりの対象となった。
昭和15年7月、アクセサリー、絹織物等の製造販売禁止令が出され、国防婦人会は「贅沢は敵だ」の全国的キャンペーンに取り組んだ。仙吉は街頭で割烹着姿の婦人会とかち合う。彼にとって小金を貯め、好きなものを着ることは当たり前のことだった。金の指輪もいざという時のために身につけている。「何が悪い」と言う仙吉の背中に「非国民」と婦人たちの罵声が飛ぶ。彼は何ら抵抗思想の持ち主ではないが、それが許されない時勢。
国民精神総動員運動を実践する末端組織として、町内会・隣組などの隣保組織が全国に網羅された。そこを単位に勤労奉仕、貯蓄目標額の達成、防空演習などが実行された。映画には宮城遥拝をもって始まる隣組の常会が登場する。皇居の方を向くか、実際に天皇が移り住む日光の御用邸の方を向くかで揉め、あっちを向いたり、こっちを向いたり。今日から見れば滑稽に映るが(喜劇を得意とする山田洋次監督の面目躍如!)、当時はすべての学校にご真影を納めた奉安殿が置かれており、天皇への礼拝を欠くのは命がけの行為だった。
 一方、こうして国民が戦時色に塗り込められていくなかでも、山田監督は国民が心の髄まで支配されてはいなかったことを描く。思想犯を出し、周囲から非国民のレッテルを貼られた野上家だったが、冬、馴染みの炭屋はこっそりと炭を調達してくれたし、隣組の組長は佳代に代用教員の口を斡旋してくれた。また、母べえが獄中の父べえから頼まれた本を彼の恩師のところへ借りに行った時、恩師は「悪法と言えども無法よりましだ」、お国に楯突く考えがいけないと断る。怒って引き返す母べえに背後から夫人が声をかけ、その手には依頼した本が…。
このように、物資がなく、言論統制が厳しい戦時下ではあったが、人々は軍部を恐れながらも互いに助けあっていた。そこにあるのは弱い人を助けたいという人間の自然な感情であり、抑圧された心の奥の声が紡ぎだす連帯でもあった。
戦争とは愛と自由を奪う最大の暴力である。しかし、どのような政治体制であれ、人間が考えることを止めさせることはできないし、人間の精神を圧殺することはできない。よく聞く話だが、戦地で兵士が死ぬ間際、発する言葉は「天皇陛下万歳!」ではなく、「お母さん」だったと言う。
長い間、山田洋次監督作品は性や暴力を描かないので反体制ではないとか、「男はつらいよ」にいたっては人々の反権力のエネルギーを奪うものだなどの批判があった。しかし、監督は権力を描かないどころか、「家族」(1970)や「故郷」(1972)「息子」(1991)などのもう一つの作品群では政治が人々をどのように生きづらくさせているかを一貫したテーマとしてきた。「故郷」では廃業に追い込まれた井川比佐志扮する石運搬船の船長が妻(倍賞千恵子)に吐く言葉がある。
「みんな言うじゃろうが、時代の流れじゃとか大きいものには勝てんとか…
大きいものとは何を指すんかいの…」
人間にとって大切なものはぎりぎり命であり、家族の幸せであろう。今回は戦時体制のなかの家族を描くことによって、戦争そのものを内側から告発する。内側とは家族であり、精神の内側でもある。山田監督はこれまで家族を多様な角度から描いてきたが、その蓄積された技術が見事に結晶しており、豊かな画素数を持ち、心の動を生み出す奥行きのある作品となった。観客は戦闘場面こそないが、戦争の怖さを身にしみて実感する。
山田作品のなかでも珠玉の出来栄えと言える。吉永小百合にとっても「キューポラのある街」に次ぐ代表作となった。原爆詩の朗読が演技に生きている。
私は父べえが帰宅した時に降る雪を忘れない。それは人々の心にしんしんと降り積もった。
                                     (M男)

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コメント

JUNSKY さん

ども・・

「10歳の子の母親に違和感がない」というのは年齢的には無理があるのだが意外と無理に感じなかったという位の意味でしょう。
ファンの贔屓の引き倒しで映画は持っているともいえるかも・・

【・吉永小百合はきっと山田洋次監督の心の恋人】
について

山田洋次監督ばかりではなく、団塊の世代前後の50代・60代男性の多くにとって、吉永小百合さんは間違いなく『心の恋人』な訳で・・・

私ももちろんで、写真展でイメージDVDを買ってしまうくらい・・・

『・10歳の子の母親に違和感がない。』
とのM男さんの受け止めは贔屓の引き倒し!

私も吉永小百合の大ファンですが(写真展を見に行くくらい)、
私的には、相当無理がありました。
幾ら若作りしたとしても62歳ですからね。
やっぱり祖母という感じでした。
むしろ檀れいさんが母親役をやるべきでした。

小道具や風習(出征の場面など)などのディティールには相当拘ったということです。

 TBが通らないので、すいませんが。
 岩国が心配ですが、アメリカが変われば、日本にも影響があると思って記事にしました。
http://heiwawomamorou.seesaa.net/article/83263505.html

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