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2008年10月17日 (金)

インツゥ・ザ・ワイルド

M男さんの映画評論です。

今回はインツゥ・ザ・ワイルドです。

レイトショーで9:10にに始まり終映は11:40だったそうです!
「モーターサイクル・ダイアリーズ」を思い出しながら観ていたら、撮影は同一人物だったそうです。
人間の死について考えることになりそうです。

ーーー

シネマぶらり観て歩き(116)
インツゥ・ザ・ワイルド
                                アメリカ

1992年9月、アラスカ、マッキンレー山の荒野でヘラジカを追っていたハンターの一団が廃バスのなかに男の腐乱死体を発見した。ジャーナリスト、ジョン・クラカワーは『アウトサイド』誌の編集長から男の謎に迫る記事を書くよう依頼された。男の名はクリストファー・ジョンソン・マッカンドレス。ワシントンDC近郊の高級住宅街で育ち、1990年の夏にエモール大学を優秀な成績で卒業後、姿を消していた。クラカワーは9千字からなる記事を『アウトサイド』に発表した後も追跡を続け、”IN TO THE WILD”(邦訳「荒野へ」集英社)として出版した。本に感銘を受けた俳優でもあるショーン・ペンが10年間の構想の後、映画化した。
クリス(エミール・ハーシュ)の父親はNASAに勤務し、その後、会社を立ち上げたアメリカ社会の成功者だった。クリスと妹カリーンはお金には不自由なく育った。父親には正妻と子どもがいた。だから、離婚するまでクリスと妹は私生児ということになる。両親はしばしば激しく喧嘩し、兄妹は父親のDVを嫌と言うほど見た。破綻した関係だったが外では良い夫婦だった。
大学卒業の日、お祝いに新しい車を買ってやると言う父親の申し出をクリスは拒否した。彼には自分で買った中古ダットサンがあった。彼は残った学資金を慈善団体に全額寄付し、手持ちの紙幣を燃やして、あてどのない旅にでた。なにものにも囚われない自由をもとめて。勿論、お金なしでは生きてゆけない。ヒッチハイクと日銭稼ぎの仕事を繰り返し、目的地アラスカ山脈の荒野へ到着した。そこには廃棄されたバスがあり、クリスはMagic Busと名づけてそこを住処に自力で生活をはじめた。彼が尊敬したトルストイのようなストイックな生活が続くはずであった……。
映画は原作にほぼ忠実に作られている。最期の場所となった廃バスとそこに至る旅路をカットバックで追う。彼は何を求めてアラスカに行ったのか。なぜ、バスのなかで死んだのか。抑制の効いた演出でクリスの足跡を追う。
青春期、社会が偽善と虚飾に満ちていると思うことがある。放浪の旅に出たり、小悪に手を出したりしてしばしばドロップアウトする。絶望して自死することもある。クリスもそんな若者の一人だった。彼は当座の問題として社会への妥協を拒否した。背景として父親への反発も無視できない。ともかくも卒業式の後、“Society! Society!”と唾棄しながら、旅立って行った。
映画では旅で出会った人々との交流が丹念に描かれる。クリスは決して人間嫌いではなかった。北カリフォルニアの大自然のなかでヒッピーのカップルとしばし旅をともにし、人生を語らった。サウスダコタ州の大農場で兄のように慕う男と会い、トラクターを操った。アウトサイダーたちが集まるスラブ・シティのコミュニティでは美しい歌手の少女と出会い、一途な思いを向けられた。カリフォルニアのソルトン・シティではフランツという老人とめぐり合い、お互いの身の上話をした。打ち解けあううちに、老人は自分の養子になってくれと懇願する。が、彼の心は一途にアラスカへ向かっていた。
クラカワーが『アウトサイド』誌の記事にたいする反響を述べている。「大量の投書が寄せられ、相当数の手紙はマッカンドレスを非難していた。なかには、ばかばかしい無意味な死と考える者たちもいて、記事の筆者である私も、彼を賛美しているとして非難された」(前掲書)。
映画への感想にも同種のものがある。昭和に育った中高年より、若い世代の方がクリスにたいして「愚か者」「甘ったれ」と手厳しいようだ。この非難はある意味、健全といえるし、また、今日という時代の余裕のなさを示しているともいえる。
しかし、彼には死ぬつもりは毛頭なかった。物質的には貧しいが精神的に満たされた生活を求めて山に入ったのだから。ただ、彼は社会を憎むことと社会が生み出したものを受け入れることの違いを混同したのかもしれない。あと少しの食料と荒野に生きる知識さえあれば彼はふたたび家族のもとへ帰ってきたはずだ。
クラカワーは同著「作者ノート」でクリスに対する評価は読者におまかせしたいと結んだ。しかし、原作を通底しているのは妹カリーンの視点である。カリーンは兄を深く愛し、尊敬していた。温もりのない家庭のなかで身を寄せ合って育ったかけがえのない兄である。
ペンはその視点を保持しながら、自然と人間、社会と個人などをコントラスト濃く浮き上がらせた。短かったけれどこう歩むしかなかった若い生命の燃焼。クリスの生き方にたいする相反する意見におそらくペンはどちらにもうなずきながら聞くことだろう。
クリスは死ぬ直前までつけた日記に神の啓示のごときメモを残している。
「幸福が現実になるのはそれを誰かと分かち合った時だ。僕の一生は幸せだった。みんなに神のご加護を!」
                                       (M男)


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