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2008年11月18日 (火)

その日のまえに(M男の映画評論最終回)

M男さんの映画評論は今回で最終回です。

今までの分は本になる予定です。

本になりましたらこのブログで紹介します。

最終回は 「その日のまえに 」です。

「おくりびと」よりもあざとさのない死を描きながら実は生を描いている、内面にせまる良い作品
だそうです。

再見!

ーーーーーーーーーーーーーー

シネマぶらり観て歩き(117)

 その日のまえに              邦画

 

売れっ子イラストレーターの日野原健大(南原清隆)は妻とし子(永作博美)、健哉、大輔の二人の息子と幸せに暮らしていた。ある日、体調不良で受診したとし子は突然の余命宣告を受ける。夫婦は“その日”を迎える準備を始めた。スタートは最初に住んでいた町を訪問すること。18年ぶりに訪れた駅前通りは随分変わっていたが、少し入った商店街には思い出の店があった。結婚当時、暮らしていたアパートも残っていた。懐かしさがこみ上げてきた……。

 

けふのうちに

とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ

みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

 

原作者・重松清と脚本家・市川森一はかつて読んだ宮澤賢治の「永訣

えいけつの朝」の「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の不思議な余韻を頭の片隅にとどめていたのだろう。

)

市川は原作の後半にわずか数行あったこの詩を作品全体に膨らませ、監督・大林宣彦はそのイメージをスクリーンの上に映像の可能性ぎりぎりまで表現した。詩の情感や節度をいささかも失うことなく。

 

 

(いろの暗い雲から

そう)

(

えん)

  みぞれはびちょびちょ沈んでくる

  ああとし子

  死ぬといういまごろになって

  わたくしをいっしょうあかるくするために

  こんなさっぱりした雪のひとわんを

  おまえはわたくしにたのんだのだ

  ありがたうわたくしのけなげないもうとよ

  わたくしもまっすぐにすすんでいくから

  (あめゆじゅとてちてけんじゃ)  

 

賢治の2つ年下の妹トシ(とし子)は日本女子大を出た後、花巻高女の教諭をしていたが、大正111124才で病没する。死を前にした妹が賢治に「あめゆじゅ」(みぞれ)を取ってきてくれと頼む。妹が兄にしてやれるのは暗い部屋から表に出すことだけだった。賢治はジュンサイの模様のついた茶碗を天にかざし、みぞれを受けた。一度聞いたら忘れられない光景。かつて東北の旅で岩手を訪れた時、年配のバスガイドが朗読した詩と語りに私は思わず涙を流した。

「僕たちはいずれ訪れる和美の死を『その日』と読んだ」(原作から)

市川は原作の妻の名“和美”を賢治の妹と同じ“とし子”に変え、出身を岩手県にした。映画は「その日」を迎えるとし子の闘病と一家の日常を行きつ、戻りつしながら描く。基調をなすのはこの詩であり、物語全体の枠組みをなすのは賢治の世界である。

愛するものの死は辛い。しかし、夫婦は受け入れていく。とし子はその日を準備する。つとめて明るく振舞おうとするとし子の姿が観客の胸を締めつける。そして、入院。とし子は元気な姿を記憶に残したいと子どもたちとの面会を拒む。

「風呂からあがって髪を乾かし、歯を磨いておこうと洗面台の棚に手を伸ばした。スタンドに立つ歯ブラシは三本。青が僕、黄緑が健哉、白が大輔。和美は入院前に自分の歯ブラシを処分していた。

 手回しがよすぎるよな、と苦笑した顔が鏡に映る。鏡の中の自分と目があうと日常を保てなくなりそうなので、そっぽを向いて、歯ブラシをとった」(原作)

原作者はとし子のいない日野原家の日常を読み手のイメージのなかに静かに落としこんでいる。

説明過剰とも思える描写だがどこか透明感を帯びる。

大林監督はこのトーンをファンタジーの世界に置き換えた。

一家が住むマンションの壁にはとし子が青いペンキを塗りかけたままにしている。壁は空につながる。「あめゆじゅ」が降ってきた空だ。その明るく晴れ渡った空(壁)に飛行機雲がゆっくり伸びる。悲しみがトレースされる。

映画は夫婦を軸にかつて暮らした町に住む人々たちやとし子の親をめぐるエピソードを伏線として加える。彼らは「銀河鉄道の夜」や「セロひきのゴーシュ」などに出てくる賢治の作品の登場人物たちである。

圧巻はとし子の死から三ヵ月、病院の看護師長がとし子から預かった手紙を健大に渡す場面である。そこに書いてあったのは……。

死を題材にした作品だが暗く悲しい印象はない。あまりにも短い人生の悲嘆としてではなく、避けられないその日までひたむきに生きた時間を主人公と共有するからであろう。館を出て、あらためて気づくのは普段見えていない日常の尊さだった。

「やっぱり、海のにおい、するよ」

その日へ向けてスタートとなる電車のなかでとし子は言った。海辺はまだ遠くにあった。

 

 主役の南原清隆、永作博美が好演。南原はお笑いタレントのイメージを払拭させる演技。永作は病気が進行するなか、明るい笑顔の奥にぞっとするような悲しみを見せる。全編に流れるチェロが悲しい。生と死と宮澤賢治とファンタジーがスクリーン上で得も言われぬ化学反応を起している。大林監督の最高傑作といえるだろう。

 

                                   (M男)

*引用した詩は「宮澤賢治詩集」(浅野晃編 白鳳社)、原作は「その日のまえに」(文芸春秋)


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