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河野裕子さんに謹んで哀悼の意を表します


歌人の河野裕子さんが亡くなった。

現代を代表する女流歌人で私と「コスモス」に同時期に属していたこともあります。
その才気あふれる戦後の女流短歌の歴史を作った河野裕子さんに謹んで哀悼の意を表します。

略歴はこうです。

熊本生まれ。高校3年の秋、「コスモス短歌会」に入会する。京都女子大学在学中に第15回角川短歌賞を受賞。1972年、第1歌集『森のように獣のやうに』出版と同時に結婚し、上京。5年後、京都に戻る。1984年夫の留学に伴い、二人の子供を連れて渡米。2年後帰国。1988年「コスモス」を退会し、「塔」会員となる。朝日カルチャー講師。NHK学園選者。毎日歌壇選者。 (『河野裕子歌集』より)

歌人・俵万智さんはこう語っています。

「自分が歌を作り始めたころから活躍されていて、大きな目標だった。女性らしさを肩ひじ張らず、おおらかに自信を持って表現されたのは、すごく新しかった。恋や命を育む母など女性ならではの歌を作ってこられた。本当に残念です」 〔読売新聞 2010年8月13日 〕

こんな記事もあります。

 河野さんはがんを患いながらも、昨年9月から、夫の和宏さん、長男の淳さん、長女の紅さんとともに、産経新聞夕刊文化面で、歌人一家リレーエッセー「お茶にしようか」を連載していた。 〔産経新聞 2010.8.13 13:32〕

新進歌人である娘の永田紅さんがお母さんの意志を継いで行くでしょう。

今仲間と檜葉奈穂さんの「ミューズへの挑発」を勉強しているが、そこに出てくる歌人(特に阿木津英さん等)と比べると私には安心して読める女歌である。


河野裕子さんの処女歌集『森のように獣のやうに』にこんな有名な歌があります。


ブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり

篠弘は「失踪する女流歌人」の中でこうこの歌について述べている。

みずみずしい肉感的な感性と、全身から若さを喚起するような、なまなましい熱情がほとばしり、新しいタイプの女歌が現出してくる。 かつての中城ふみ子のようなセキュシュアルなものではない。挑発的ではなく、豊かな明るさをいつくしむものとなる。 きれいごとの相聞歌ではない。愛しあう真情が、きわやかに体感されるものとなる。この女の大胆な息づかいが躍如とあらわれる点で、上の戦後世代のそれとも大きく異なっていた。

第三歌集「桜森」にこんな歌があります。

   君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る

篠弘は同じく「失踪する女流歌人」の中でこうこの歌について述べている。

若い母として、また妻としての、こうした破天荒な激情というものが、行動に託されていて、きれいごとではない。生身で挑んだ肉声が溢れる。これまでの女歌が詠んでこなかったものである。

そして河野短歌をこうまとめて居る。

混沌とした母胎の始原力、生存に敏感な魔性を抉ることによって、極力エネルギッシュに身体感覚を使って来た。 作品からほとばしる熾列な心熱には、目を見張るものがあった。女性像を強調した作品には説得力があり、あきらかに同世代者の男性をリードするかたちとなっていた。


河野さんの初期の青春の歌を紹介します。

寝ぐせつきしあなたの髪を風が吹くいちめんにあかるい街をゆくとき

坂こえて来たる夕雲ふかぶかと野の花いろの光ふくみて

寝ぐせつきしあなたの髪を風が吹くいちめんにあかるい街をゆくとき

横たはる獣のごとき地の熱に耳あててゐたり陽がおちるまで

2008年11月号の短歌研究にがんと闘う歌があります。
痛々しいものがあります。
紅さんにだけは隠しておきたかったがんの再発の事を歌にしています。


あくせくと阿呆な仕事を引き受けぬもう死ぬ母を放つたらかしにして  

この髪も脱けてしまふか一櫛ひと櫛わたくしの髪

大泣きをしてゐるところへ帰りきてあなたは黙つて背を撫でくるる

かうなれば体力温存猫二匹身体に添はせ昼より眠る 

わたしより不安な不安な君なれど苦しむ体はわたしの体

俺よりも先に死ぬなと言ひながら疲れて眠れり靴下はいたまま

わたししかあなたを包めぬかなしさがわたしを守りてくれぬ四十年かけて

紅(こう)にだけは隠しておきたかりし再発のことこの子は充分に悩んで生きて来た

慰めも励ましも要らぬもう少し生きて一寸(ちよつと)はましな歌人になるか

三時間かけて受けゐる点滴と六十兆の細胞、白兵戦を戦ふ

銀河最終便

これらの歌はきっと人生全てが短歌であった河野裕子さんの晩年の歌として短歌史に残るでしょう。

合掌!

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コメント

はじめまして。くまんパパこと、「短歌人」所属の坂本野原と申します。
トラックバック、ありがとうございました。

デビュー時から最後まで、本当に稀に見る歌人らしい歌人でいらっしゃいました。衝撃を受けております。

第一歌集の「ブラウスの中」の歌は、鮮烈な名歌として印象に残っております。
この「乳房の歌」を詠んだ方が乳がんで亡くなるとは、皮肉というにはあまりにも悲しい巡り合わせでした。

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