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片務的なTPP日米並行協議の問題点
2013年8月21日
大和総研 調査提言企画室 主席研究員 長谷部 正道
http://www.dir.co.jp/library/column/20130821_007573.html
を読んだ。

財界の見方が冷静なのに感心した。
しかし結局は「我が国が現在やるべきこととしては、あるはずもない重要5品目の関税撤廃などについて国民の不安を煽ることではなく」となる。
ある意味騙さないという意味では政府よりも正直だとも言える。

>片務的なTPP日米並行協議の問題点 | 大和総研グループ | 長谷部正道
http://www.dir.co.jp/library/column/20130821_007573.html

1. 結局日米二国間協議の場に引きずり出された日本
2. 一方的・片務的な日米協議の協議事項
3.いくつかの具体的に懸念される事項
(1)自動車交渉(2)保険(3)その他の非関税措置
4.米国をはじめとする交渉相手国の具体的な関心事項を見極める必要性

片務的なTPP日米並行協議の問題点
2013年8月21日
調査提言企画室 主席研究員 長谷部 正道

1. 結局日米二国間協議の場に引きずり出された日本

西側自由主義経済圏の中では依然として米国に次いで第2位の経済力を持つ日本が米国と協力して国際的な自由貿易体制の強化を図ることは一般論として重要である一方で、TPPを含む貿易交渉はそれぞれの国の実利に基づいた虚々実々の経済戦争である側面を忘れてはならない。経済力も交渉力もないような小国が米国のような強い国の主張に抗えないというような冷徹な現実はあるが、交渉参加国の中で米国に次ぐ群を抜いた経済力を持つ日本は小国のような扱いを受けるべきでなく、相手側の要求に対して防戦一方にならずに日本側としても相手国から得るべきものはしっかりと主張して獲得することこそ真の意味での「国益を守る」ことにつながる。

TPP参加の可否をめぐる議論の中で、「市場自由化の実利を日本としても期待できる大きな国内市場を持つ米国との間で、韓国のように二国間自由貿易協定を結んだ方が良いのではないか。」逆に言えば、「わが国の市場が一方的に開放されるだけで、わが国にとっては相手国から得る実利を期待し得ないニュージーランド(NZ)のような国にTPPを通じて我が国の市場を開く必要があるのか。」という議論があり、これに対する反論として、「米国との間の二国間交渉では非常に厳しい交渉が予想されるので、こうした一対一の厳しい交渉を避けるためにも、TPPという多数国間の交渉の場に参加して、日本と利益を共通とするような国(例えば、乳製品におけるカナダ等)と連携して交渉した方が良い。」という意見があった。つまり、本来日本との二国間交渉であれば受け入れる必要もないようなNZ等の国からの要望を受け入れてまでも、米国との一対一の真剣勝負を回避するためにTPP交渉に参加したという思惑も動機としてあったのである。

以上のような本来不必要なNZ等への譲歩を行ってまでも、米国との二国間交渉を避けたかった日本であったが、結局我が国のTPP交渉参加の許諾を米国から得る条件として、TPP交渉と並行して米国との間で米国の関心分野である自動車、保険、衛生植物検疫措置(SPS:農業)等の非関税障壁について二国間で協議を行い、合意した内容はTPP発効と同時に法的拘束力を持った協定等によって実施されることとなった。

2. 一方的・片務的な日米協議の協議事項

8月7日から9日にかけて開催された第1回の日米協議の内容の詳細は明らかにされていないが、協議事項はすべて米国側関心事項に沿ったものであり、日本側から米国に対して、是正を求めるような事項が含まれていない、明らかに一方的・片務的な交渉である。米国の不公正貿易措置については、既に過去のコラムで指摘したとおり、毎年経済産業省が取りまとめている「不公正貿易白書」の中で細かく指摘されており、一例を挙げれば、WTOの場で米国の敗訴が確定している「バード修正事項」の問題について、米国がWTOの決定に従った是正措置を取らないために我が国がWTO協定に基づいて発動している対抗措置を本年9月1日からさらに1年延長することを8月2日に決定したばかりである。こうした米国側の不公正貿易措置について日本側から一切取り上げることができずに、一方的に米国側の関心事項について防戦を余儀なくされるというのは、対等な貿易交渉とは言えないし、政府首脳部が口にする「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」という図式が、少なくても米国に対しては一切成立していないことを明白に物語っている。

3.いくつかの具体的に懸念される事項

(1)自動車交渉

自動車貿易については、相互の市場の更なる開放を進めてWin=Winの関係を構築できるTPPのモデルと本来なりうる分野である。しかし、日本のTPP参加に最も反対する米国の自動車業界の強い要求を受けて、米国市場の開放については、現在日本車にかけられている米国の高関税については「TPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃され、かつ最大限に後ろ倒しされる」一方で、日本市場については、米国車に対する「非関税障壁」が存在することを前提に広範な分野で米国の改善要求に沿った交渉が進められることを日米事前協議の場で既に認めさせられている。つまり米国は失うものが一切ない一方的・片務的交渉である。さらに、本年4月には、日本政府は販売台数が少ない輸入自動車のために特別に設けられた簡易な認証制度である輸入自動車特別取扱い制度(PHP)の対象となる一型式あたりの年間販売予定上限台数を2,000台から5,000台に引き上げることを決定させられている。自動車協議の米国側関心事項の詳細を論ずるスペースはないが、最も問題と考えられるのが、米国と比べて我が国の方が進んでいる自動車の環境性能・安全に関する基準について両国の調和を図るとされ、さらにこのような規制を新たに講ずる際に「透明性」の確保として、新たな規制措置の事前通知、意見を表明する機会の保証、新たな規制に対応するための合理的な期間の確保などを求められている点である。我が国の国土が米国と比べて極めて狭く人口が密集しているというような合理的な事情から我が国の環境・安全基準の方が米国内に比べて高めに設定されているにもかかわらず、新聞報道によれば、例えば、米国の殆どの州においては自動車の騒音基準がないので、我が国にも騒音基準の段階的な撤廃を求めるなど国民の「安全安心」に直結する国内基準にまで、米国車を売りつけるために不合理な内政干渉を行ってくる意図も垣間見える。

(2)保険

日本の生命保険市場は米国に次いで世界第2位の規模を誇る、外資にとっては魅力的な市場である。生命保険全体で見ると外資の割合は2割弱にすぎないものの、医療保険特にがん保険については米国系の保険会社が市場シェアの約80%を握る金城湯池の地であり、74%のシェアを誇るアフラックに至っては同社の営業利益の約8割を日本市場から挙げているという元々極めていびつな市場であった(※1)。こうした米系保険会社の寡占を阻止するために日本郵政グループの強力な販売網を持つかんぽ生命が国内大手生命保険会社と組んでがん保険市場に参入しようとしたことがこの問題の発端である。米系保険会社としては現在の寡占的で収益性の高い市場を維持するために、かんぽ生命が日本郵政グループの一員として、他の民間保険会社と比べて有利な競争条件に置かれているとして、公平な競争条件が確立するまでは、かんぽ生命の新規市場参入を阻止するよう米国政府を通じて日本政府に働きかけた。日本政府は、日米事前協議の結果、米側要求のとおり、現在公平な競争条件が成立していないという前提を認めて、公平な競争条件が確立されるまではかんぽ生命の新規参入は認めないと決定した。これに対し、新規分野に参入して収益力を強化し、一日も早い株式の上場を果たしたい日本郵政は国内生保大手との提携は諦め、アフラックと提携してアフラックの保険を日本郵政のネットワークで販売することに合意し、問題の解決を図った。既に国内市場の75%のシェアを持った圧倒的な寡占企業が、全国の郵便局という強力なネットワークを獲得してさらに収益力を高めることが日本の消費者保護の観点から好ましいかどうかという判断については独禁法当局の判断に任せるとして、これで保険の分野についての米の関心事項は、同じく民間の保険会社と共通の規制を受けていない(金融庁の監督を受けていない)と批判されている共済に絞られることになった。

(3)その他の非関税措置

その他の非関税措置としては、透明性・貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便及び衛生植物検疫措置(SPS)の各項目について協議が行われることとなる。すべてにわたって詳述する紙面はないが、政府調達、急送便、SPS以外の項目については当然のことながら、製造業の利益にも直結する論点であり、国内で流布されているような「TPPでは農業が負け組で、製造業が勝ち組」というような単純な図式で割り切れないことを十分認識する必要がある。

また、高関税や関税割当制度といったあからさまな保護貿易主義的な政策ではなく、SPSを活用して実質上国内の競争力の弱い農業製品等を保護する傾向が世界各国でみられるが、そうした意味ではSPSは関税が撤廃された後でも活用し得る最後の国際法的に是認され得る実質的な国内産業保護手段であり、国民の「食の安全安心」を守るという意味では、上述した自動車の環境基準・安全基準と同様の極めて重要な問題であることに留意する必要がある。

4.米国をはじめとする交渉相手国の具体的な関心事項を見極める必要性

日本政府のTPP交渉に関する対処方針は公表されてはいないが、衆参両院の農林水産委員会の決議によれば、「コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物(砂糖・でんぷん)」の計5項目(関税分類上586品目)について聖域として関税撤廃の対象から除外することこそが、今次TPPの我が国交渉団に課せられた最大の課題とされているようである。

しかし、「例外なき関税の撤廃」を主張しかつそれを受け入れることが実際に可能なのは国内に保護すべき産業をほとんど持たないシンガポール、ブルネイ、NZといったTPP交渉の先駆けとなったP4協定の加盟国くらいであり、米国にしても、乳製品についてはNZと、砂糖については豪と比べて競争力が相対的に劣後しており、国内のこうした産業を保護するためにこれらの分野について関税を撤廃する可能性は全くないと言ってよい。従って、「例外なき関税の撤廃」などという合意は現実的にはあり得ないし、乳製品と甘味資源作物については、米やカナダなども日本と同様に守るサイドにいることを認識する必要がある。さらに小麦については、米国小麦生産者協会は「日本は米国にとって長年にわたり最大の小麦輸出市場であり、既に日本市場の60%を保持しているため、拙速な自由化を追求して、日本市場において豪やカナダの小麦のシェアが増えることだけは絶対に避けなくてはいけない。」という極めて現実的な要望を米国政府に提出しているのであり、関税の撤廃などを要求していない。また牛肉についても米国産の輸入牛肉に関する基準を既に本年4月に大幅に緩和をした結果、米国産牛肉の対日輸出は約45%増加すると見込まれており、米国の食肉輸出連合会等も既に満足しており解決済みといってよい。

コメに至っては、新たにUSTR代表に就任したフロマン大使の議会証言や、米国政府・議会による日本とのTPP交渉に関する公式文書の中にも、優先事項として一切触れられていないし、他のTPP交渉参加国も強い関心を示していない。なぜなら日本のコメ市場の自由化を図っても、その利益を主として享受するのは、価格面などで競争力のあるタイなどのアジア諸国であって米国等のTPP参加国ではないからである。

TPPにおいては物品、サービス、投資及び政府調達については、市場アクセスの包括パッケージとしての合意が追及されており、米国の砂糖や乳製品などのように、各国の最もセンシティブな重要事項はこうしたパッケージ全体として最終的には首脳レベルでの二国間交渉で決着がつけられる見通しが強まっている。

我が国が現在やるべきこととしては、あるはずもない重要5品目の関税撤廃などについて国民の不安を煽ることではなく、TPP交渉最終局面における米国等との二国間首脳レベル交渉において、日本からも切れる交渉カードをしっかり用意することであり、そのためには相手国の弱い分野について実務交渉のレベルでしっかりと切り込んでおくことと、相手の欲しい事項について、時期尚早に我が国の切り札を切らない(早々と妥協しない)ことが肝要である。
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