なぜ職業大だけが狙われたのか
雇用・能力開発機構解体=職業能力開発総合大学校廃止は先送りになるか
8月21日に「職業能力開発総合大学校」と「職業能力開発促進センター」残して!
という記事を書いたが福田首相辞任で茂木大臣辞任となればこの計画はどうなるのかについて以下記事がありましたので紹介します。
「福田内閣総理大臣の辞任で雇用・能力開発機構解体=職業能力開発総合大学校廃止は先送りになるか」
2008年8月17日付読売新聞の記事では、「茂木行政改革相が具体案を作り、9月3日に開かれる政府の行政減量・効率化有識者会議に示す予定」の中身として、職業能力開発総合大学校の廃止等が含まれており、その背景として、福田首相が同年8月13日に行政改革相を呼び、「(雇用・能力開発機構解体の方向で)早く結論を出してほしい」と指示していたことが挙げられている。このことから考えると、福田内閣総理大臣が辞任した今、雇用・能力開発機構解体=職業能力開発総合大学校廃止はいったん遠のいたと見ることも不可能ではない。しかしこのときの発表内容を分析すると、この具体案の真の、かつ最大の狙いは雇用・能力開発機構(以下、「機構」という。)の解体ではなく、職業能力開発総合大学校(以下、「職業大」という。)の廃止であることがわかる。なぜなら、「私のしごと館」について「民間への売却か廃止」、「能力開発促進センター」(以下、「センター」という。)について「都道府県への移譲か廃止」と、それぞれ廃止以外の方策の含みがあり、またこれまでの行政減量・効率化会議では同様に問題になっている「職業能力開発大学校」(以下、「能開大」という。)については言及さえもないのに対し、職業大だけが「廃止」と明確に言及されているからである。この相違から見れば、福田内閣総理大臣の辞任により、「財政出動派」の政権ができ、あるいは厚生労働官僚との妥協が成立して機構の解体は免れたとしても、職業大だけは廃止される可能性が高いであろう。
それでは、なぜ職業大だけが狙われたのか、以下にその理由を検討する。まずセンターについて言えば、以前から都道府県への移譲案はたびたび出されており、目新しさはまったくない。そもそも機構の前身である労働福祉事業団は、石炭から石油への産業構造の転換に伴う炭鉱離職者対策に端を発しており、センターの設置地域も九州・北海道に偏在している。そこに被差別部落の雇用対策の要素も加わって現在のセンターの配置がなされてきた面は否定できない。結果として首都圏には人口密度の割にセンターの数は当初から少ない(東京都には以前から一つもない)。貧困の世代間の継承についての配慮をさておくならば、炭鉱離職者対策の時代はすでに終わっている。被差別部落の雇用対策としても、解放塾や奨学金事業などの教育対策や住宅対策が効を奏していたならば、中央政府がセンターを設置運営する必要性はもはや存在しないはずである。かりに存続が必要であったとしても、障害者職業能力開発校が現在そうであるように、国立都道府県営は十分可能である。したがって、センターの都道府県への移譲又は廃止という提案は、機構としても織り込み済みであったはずである。
次に、能開大はどうして今回言及さえされなかったのだろうか。一つの可能性として、茂木大臣が関東能開大の地元・栃木県出身の議員であるために言及を避けたことが考えられる。その背景には、民間専門学校が少なく、地方政府に能開大を自力で設置運営する財政力のない道府県における、中央政府の事業への根強い期待がある。しかし他方でまた、大学と同様の組織としてみるならば、機構のもとに残った場合であれ、地方政府に移譲された場合であれ、近い将来において、それぞれの能開大が独立の法人としてやっていかざるを得ないわけで、その中で生き残れなければ廃止される運命にあるのは自明の理であるから、あえて今回言及して選挙民の反発を買う必要がないという判断もありうる。 なお「私のしごと館」は、計画当初から公共工事(つくる過程自体)を目的としたハコモノと批判されてきたものであり、今回売却という形で民間事業者に対する土地ころがしができれば、用地買収・造成・建設・不動産売買事業への支援というお定まりの流れが完成することになる(マスメディアが信じさせようとしているように、売却によって労働者・国民に何らかの補償がなされるわけではなく、むしろまとまった用地を特定の民間事業者が安く手に入れるための儀式に過ぎない)。もちろんこのことも機構にとっては織り込み済みである。
このように見てくると、すでに約半世紀の歴史をもつ職業大の廃止だけがいかにも唐突な印象を受ける。しかし決してそうではなく、職業大が狙われた理由の一半は、自らの立地条件を省みずに、機構=職業大そのものがつくり出したものである。その立地条件とは何か。アメリカ合州国軍隊が世界の拠点として構想する日本の首都郊外の軍都・相模原(神奈川県)に広大な敷地をもつことである。2007年12月19日のアメリカ合州国陸軍第一司令部の座間市への移転に象徴されるように、北アメリカ・日本の両帝国主義勢力は世界支配の拠点としてこの地域を着々と我が物にしてきた。首都圏の地理を知っている者なら誰でもわかるように、この移転の以前から、相模原は厚木基地(アメリカ合州国海軍厚木航空施設と海上自衛隊厚木航空基地との複合施設)と横田基地(在日アメリカ合州国軍、第5空軍及び第374空輸団の3つの司令部を含む施設)とをつなぎ、相模総合補給廠(在日アメリカ合州国陸軍の補給施設)をもつ要衝の地であり、国道16号線及び首都圏中央連絡自動車道によって、首都を取り巻くアメリカ合州国及び日本の軍事基地とつながっている。職業大は、国道16号線を間にはさんで、相模総合補給廠からほぼ一里のところ約7万坪の敷地を有している。世界の軍産複合体が早くからここに目をつけながら、これまで手を出さなかった理由は、一つではない。
第一の理由は、1990年代にいたるまで雇用保険特別会計の膨大な黒字で運営される機構が、この地を容易に手放す理由を持たなかったことである。第二の理由は、職業訓練指導員の養成施設という大義名分に強い疑念をきざした1980年代後半から1990年代にかけて、目的校としての再編をまがりなりにも達成し、廃校の危機をのりきったことである。第三の理由は、職業能力開発という、建前としては労働者のためのものでもある施設を、戦争のために取り上げることによって、全国的な反体制運動の退潮期において相模原戦車輸送阻止闘争を闘った、この地域の特異な反基地感情に火をつけるのを恐れたためである。第四の理由は、昭和天皇の病気による学園祭「自粛」反対の動きに象徴されるように、1980年代から1990年代にかけて、日本国憲法の主権在民の規定を尊重する学生運動が職業大に存在したことである。第五の理由は、土地それ自体の値打ちに(軍産複合体の視点から見た)付加価値を加えるものがなかったこと、すなわち、職業大が軍産複合体が求める「高度な」技術ではなく、「泥臭い」技能を追求してきたことである。上記の第一の理由から第五の理由が、今日すべて消失したことは明らかである。雇用保険特別会計の逼迫、目的校としての性格の再三の喪失と、何よりもそのことへの自省のなさ、市町村合併による相模原市の財政赤字から生じる基地補助金への期待(逆言すれば、軍都としての再生のための市町村合併=政令指定都市化=財政赤字化であった)、職業大における学生運動主体の消失、2004年の7工学科(精密機械システム工学科、機械制御システム工学科、電気システム工学科、電子システム工学科、情報システム工学科、通信システム工学科、建築システム工学科)への再編が、そのことを物語っている。
さきほど廃止の理由の一半は「機構=職業大そのものがつくり出した」と述べたのは、この目的校としての性格の再三の喪失と自省のなさに加えて、2004年の学科再編のことを指している。軍産複合体は、今や職業大の土地だけを欲しているのではない。彼らは現存の施設設備のみならず、その頭脳(優秀な教員=研究者)も含めて、丸ごと利用しようとしているのである。もちろん人的資源についていえば、彼らの視点から見た思想・技術の両面から厳しい選別排除が行なわれるであろうことは間違いない。ある意味では残念なことではあるが、職業大の教員のなかから、身分保障と賃金のためだけでなく、「研究」のために、軍産複合体に魂を売り渡す者が現われるであろう。また教員・技術者として行き場のない、かつ、軍産複合体の視点からしてもまったく値打ちのない者が、まさにそのことのために、「温情として」「飼い殺し」にされるであろう。技術者として最も「優秀な」者と最も「劣った」者がともに軍産複合体に引き取られるという喜劇が演じられるのだ。
軍産複合体が、一度目をつけた目標を自ら手放すことはありえない。2008年8月17日の茂木大臣の発言は、職業大に対する軍産複合体の「戦闘開始宣言」である。職業大の存続を願う者が、福田内閣総理大臣辞職による「沙汰やみ」を期待して「頭を低く垂れ」て時を過ごすならば、座して死を待つことになるであろう。その反対に、この間隙に乗じて、世界の反基地・反軍・反戦平和運動と連帯して、平和のための科学・技術・技能を深め、労働者全体に広げるための職業訓練指導員の養成・研修の目的校としての役割に立ち返る努力を始めるならば、勝利の可能性は開けるであろう。軍産複合体が最も恐れるのは、世界の反戦運動、労働運動と結合した強力な学生運動の存在である。勝利か死か、職業大の学生一人ひとりの決断と行動にかかっている。世界の反戦運動、労働運動は彼女ら、彼らの闘いを自らの課題として支えよう。
2008年9月3日(水)更新
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