阿部美保子 「いとしきものたちへ」(写真と短歌)を読んだ
阿部美保子さんの「いとしきものたちへ」(写真と短歌)を読んだ。
子どもたちの姿が可愛いい写真集に短歌が添えられている。
(写真と短歌)という阿部さんの二つの得意分野のコラボレーションという新しい試みだがこれは成功していると思う。
文字だけの歌集は時として単調になるが写真があると説得力が増す。
マルチメディアの時代には画像や映像とテキストが融合する。
私もこういう「歌集」を作りたいと思わせるに十分だった。
中身を少し紹介します。
最初の「高島平の子どもたち」では高島平で成長する子どもたちの歴史が団地の歴史と共に感じられる。
団地の庭というタイトルの歌にはこんな歌がある。
子ら作る団地の庭の雪だるまどれも芝草てんてんと付く
「孫のそば」にはこんな歌も
「家出」とは何がおきたか昼時を玄関に孫がうつむいて立つ
こどもや「孫」の存在感があり歴史となっている、
昔母にくっついて行った歌会で指導する人が母に「孫の歌は甘くなるのであまり歌わない方がいい」と言っていたがメインテーマとして阿部さんが孫を静かに歌う歌を読むのを見ると寧ろその年代の人には「孫」をこそこういう風に歌うテーマではないかと逆に思った。
「農園家族」ー孫たちー
には家庭菜園の四季が記録されている。
「日常」というタイトルの歌群にの最後にこんな歌もあった。
小さくも紅色の濃き千日草わが人生もかく咲かせたし
公園ウオークー東京ー
の中に「かたらい」(赤塚公園1992
)という写真がある。上半身裸の男女の幼児が公園の噴水のへりに寝そべって語らっている。一度見ると忘れられない印象的な写真だ。
写真の持つ説得力と記録力を強く感じる。
ふるさとの祭りー岩手ーの中の写真「桜祭り 北上展勝地」では雪の残る山をバックに茣蓙の上で横笛を吹く中年の男性と二人の若い女性。その前を剣舞が舞う。
これも後世に残したい写真だ。
「啄木の里」という歌群にはこんな歌も
真正面に岩手山あり鶴開橋追われるごとき啄木がいる
実に啄木の故郷で阿部さんは育ったのだった。
おりおりーまなざしーの中の歌
「今の時代」
真面目に働けばマンションも買えた時代あり今若者は職さえもなく
そして最後に「東日本大震災」と題する歌群がある。
親友の嫁ぎし三陸が流される「逃げて」と思わずテレビに叫ぶ
家という家流されていく画面肩を刺しくる痛みが襲う
震災の救援物資はシャツと決め綿百バーセントを選びて送る
あとがきによるとこの本の編集の打ち合わせの最中に地震が起こり短歌もエッセイも入ることになり最後には震災の歌を収める事になったという。
これは子どもの写真集であり、人生の歌集であり、震災歌集でもある。
いろいろと勉強させて頂いた一冊であった。
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今夜は以上です。
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