現代短歌新聞9月号を読んで
現代短歌新聞の定期購読を始めました。
毎月発行で一年間1300円というのは赤字ではないかと心配するが中身はかなり濃い。
次の四つの記事を紹介します。
1.渡辺松男氏インタビュー
2.沖ななもの短歌時評「戦争の歌をどう読むか」
3.大学短歌会はいま(本郷短歌会)
4.「現代歌人特集」からの10首選
1.渡辺松男氏インタビュー
トップ記事の渡辺松男氏のインタビューは刺激的だった。
筋萎縮性側索硬化症という難病と闘いながら短歌を作り、「蝶」という歌集で迢空賞を受賞されたという。
既にやがて自力呼吸が出来なくなる事を医者に告げられているという。
「歌は時間の奴隷ではない。歌は時間を作る」
「時間を垂直に生きる」
という受賞時の言葉は意味が深いです。
存在論的な哲学詩と言われているという歌集「蝶」を是非読んでみたい。
2.沖ななもの短歌時評「戦争の歌をどう読むか」
沖ななもの短歌時評「戦争の歌をどう読むか」も面白かった。
この夏総合短歌誌で戦争特集を組んだのは「短歌研究」だけだという。
水野昌雄の「短詩形文学」の「戦争と短歌をめぐって」でのこの言葉を紹介している。
「戦時下製作のものだけではなく、あるがままに体験を綴ることのできる時に至っての戦争短歌を含めてみる必要がある」
戦後の戦争短歌を戦前との系譜の中で見る必要があるだろう。
歌人の戦争責任も追求はあやふやなままだ。
今や決着をつけるべき時代に差し掛かっていると思う。
又既に時代は戦争を知らない世代が戦争を歌い評論する時代でありこれは戦後世代に大きな問題として厳しく提起されている。
3.大学短歌会はいま
今回の大学短歌会はいま②は本郷短歌会の紹介。
東大本郷短歌会は他大学の学生も含めて19人の会員がいるという。
機関誌「本郷短歌」を発行しブログも持っている。
OBである「心の花」の大野道夫氏の呼びかけで2006年に始まったという。文語旧かなの使い手が多いというのは意外だった。
こんな口語歌を紹介しておきます。
街はふと裏がえり道はからみあう刺繍糸 どこへゆくのだ、人は
川野茅生
4.「現代歌人特集」からの10首選
コメントを付けて紹介します。
こはれゆく人間を見るは哀しくて長生きするは罪かもしれず
海峡 若山とみ子
(作者は「長生きするは罪か」とは思ってないと思う。そう思わされるような仕組みが変えられなければならないと批判していると思う)
日は落ちて高田の町は見る限りの夏草猛き荒野と化せり
山麓 菅野樅子
(私は先日福島県広野町に行ったがこの岩手県陸前高田市の風景と同じだった。何とかせねばとこの夏草に切に思う)
生理的落果をしたる甘夏を子猫のたまが転がしている
地中海 家原文昭
(面白い歌だ。長崎原爆の歌と並んでいたがこちらを採った。)
手入れせし深紅の薔薇が今日咲きぬ日陰なれども強き意志持つ
新日本歌人 山本司
(原発の歌と並んでいたがこちらを採った。「意志」に意志がある。)
我が頬に手を置き貴方は幸うすきひと世送りしと言いて立ち去る
無所属 小木宏
(この歌には驚いた。死んだ自分が葬式の参列者を見ながら歌っている。)
つぎつぎと見る人をみるまなぶたを固くとざしてゐる死者の目は
朔日 外塚喬
(この歌は逆に葬儀参列者を見ている死者の目を見て葬儀参列者が歌っている)
この生に少し波風立ててみむと思へどすべのあるわけでなし
青南 伊藤和好
(平々凡々たる「この生に少し波風立てて」みようかと私も思っています)
ひとつ法案成立せしめし党派の理伝ふる八月十日のニュース
歩道 香川哲三
(消費税増税法案のニュースだろう。「党派の理」に批判がある。こういう淡々とした歌い方は学びたいと思います。)
子規庵にてもらひし明治のあさがほの種より青き小さく花咲く
短歌21世紀 間瀬敬
(子規庵のボランティアとしては嬉しい朝顔の花だ。子規庵もいろんな事をやっています。)
一時間<廃炉>を叫びいたりしが後ろよりのど飴を渡さる
塔 吉川宏志
(デモの中ではいろんな邂逅がある。先週見ず知らずの人2人を含む4人で新橋でデモ飲みした。是非吉川さんともデモ飲みしたいものだ)
その他にも8・15を語る歌人のつどいの報告など各行事の報告や歌集の紹介など沢山の記事があります。
短歌に興味のある方はこの新聞読まれると日本の短歌界の近況が分かると思います。
以後可能な限り毎月感想文を書きたいと思います。
以上です。
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陸前高田戸羽市長のご了解を得て奇跡の一本松から作られた三体の仏像の写真を表紙に使わせて頂いてます。
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