「新日本歌人」2013年8月号を読んで
十五回目の「新日本歌人」誌の感想文です。
今回は次の7つについて書きます。
1.10首選
2.ピックアップ歌人
3.八月特集・平和を詠むから11首
4.読者歌壇から
5.短歌時評「人はなぜ短歌をつくるのか」(竹中トキ子)について
6.憲法随想 わたしの憲法事始め (八雁 阿木津英)について
7.石川啄木と杉村楚人冠(五)(最終回)(碓田のぼる)について
1.10首選
1.逝きし友の丹精込めし庭隅の黄のクロッカスの生命輝く
東京 石川靖子 p7
2.二時間の手術の後の対面に夫の差し出す左手を取る
千葉 石毛悦子 p7
3.今日本に啄木あらばとそれぞれの思い抱きて日比谷に集う(啄木祭)
群馬 伊藤仁也 p7
4.心ならずいまわのきわと言い難しもわが肩崩れゆく夫のベッドに
埼玉 乾千枝子 p8
5.「日本は戦争する国になるのかな」若き母親子を抱き締めて
熊本 上田精一 p9
6.初潮さえ知らぬ十三歳は性奴隷 抗い叩かれ 泣き叩かれた
神奈川 梅田悦子 p44
7.「母さんの娘に生まれてありがとう」母の日遺影はただ笑ってる
東京 滝沢教子 p61
8.二十二年八十五号か終刊の「波」に暫く口づけをする
山口 時任実也子 p65
9.わが短歌にあらまほしきはきな臭き安倍の心臓打ち抜く力
沖縄 仲松庸全 p66(特選)
10.選挙目当て
視察で人気取りの
アベシンゾウ
福島でもやったらどうか
福岡 高原伸夫 p74
2.ピックアップ歌人
錆びついた我が感性を砕くごと突如泣き出す蜩の声
山口 三枝史生
何故かこの歌に惹かれた。
「梅雨の晴れ間」と題する7首が我が感性を問うた。
私には蜩のような歌だった。
3.八月特集・平和を詠むから11首
拒むがに屋敷の門扉を硬く締め今なお喪中の戦死者の家
大阪 池添智恵子 p16
ほろ酔えば戦争呪いて切せつと独語となりし夫学徒兵
東京 梅重子 p17
アウシュビッツの夏草のなか嘔吐せり「人間とはなにもの?」黒きといかけ
高知 梶田順子 p18
原発作った世代と名指される六十代我ら知らないでいた罪の重さよ
東京 嘉部明子 p19
荒むしろ四方につるし幼児と若妻ありてひと筋光る
佐賀 蒲原徳子 p20
「てんでんこ」秘めて眺むる水平線リアスの海に籠る静けさ
岩手 小杉正夫 p21
砲声の今朝も轟く富士裾野キャベツ畑のみみず這い出る
田口誠一 p22
非国民と母は呼ばれし戦時中女六人産みしばかりに
山口 時任実也子 p23
かつて娘に購い与えたる「はだしのゲン」この夏孫に引きつがれたり
大阪 中山惟行 p24
戦争に反対していた
党のあった事を はじめて知った
戦後教師になって
愛知 香川武子 p25
4.読者歌壇から
古賀の里早苗根を張り生き生きとTPP拒否の光増しつつ
滋賀 竹岡竹葉 p90
選・評担当の武田文治さんのことばを紹介しておきます。
(作者の訴えを「光増しつつ」により明快に歌い上げた。TPPの行方によっては青田風も吹かない琵琶湖畔になってしまう。)
5.短歌時評「人はなぜ短歌をつくるのか」(竹中トキ子)について
タイトルと内容が合っているかはさておいて紹介します。
短歌研究六月号の近藤芳美特集の中で道浦母親都子の紹介する歌の中の一首です。
うたうことのなにかを答えよ今人間の未来への問いその命運に
歌集「命運」より
(この文章のタイトルはこの歌によって付けられたのも知れない)
この歌は未来永劫滅びないだろう。
「歌壇」六月号の「近藤芳美生誕百年ー晩年の歌境」の中で三月に福島で行われた短歌フォーラムについての梶原さい子の言葉を紹介している。
(三部構成で行われた提言、パネルディスカッションを「たとえば一部か三部のどちらかを、原発事故にかかわる歌と、事故以後の短歌の変化に特化しての話し合いに出来なかったのか」と述べている。)
9月1日-3日に仙台で短歌セミナーを行おうとしている新日本歌人協会にも参考になりこの意見を反映しようとしている。
6.憲法随想 わたしの憲法事始め (八雁 阿木津英)について
なかなか率直なエッセイだ。
戦後短歌と言えばもっぱら新歌人集団の青年歌人の動きをいい新憲法の女性短歌に対する意義と影響を語ったものは無かったので1990年代半ばに内野光子さんを始めとする数人で戦後短歌とジェンダーを考える会が出発したという。
但し、阿木津さんは選挙はずっと棄権してきたという。
政治に関してはわたしたちが創りあげていくという精神を味わった事がないという。
今回の選挙で阿木津さんはきっと投票に行かれたと思う。
それはこの文の最後にこう書いている事からの推測である。
「世代が下がるに従ってこれが戦争での数知れぬ青年たちの理不尽な死と血で購った憲法であることも忘れられてゆき、憲法隠し(とあえていう。だって、野田元首相でさえ日本国憲法は通読したことがないと国会の首相答弁で自白していたから)はうまく進んだ。だから、現在のわたしたちの頭の中はおおかた大日本帝国憲法の「臣民」規定のままなのだ。」
なかなか痛切な文章だ。
わが身を振り返って見ると法学部出身の私も憲法全文を通読した事はない。
全文を読んでみようと思います。
是非多くの若者に読んで欲しい文章だ。
7.石川啄木と杉村楚人冠(五)(最終回)(碓田のぼる)について
この連載は今回で終了した。
この度この協会誌の発行と同時に本が出版された。
毎回紹介して来たので下に並んでいるその記事がその最も早い感想文にもなっていると思う。
協会誌で間違いを見つけたが早速著者から頂いた本を開けてみるとその部分が全く削除されていた。
それはかなり重要な碓田さんの啄木に関する指摘と思われる事です。
それは1950年の「無名戦士の墓」への合葬名簿に啄木の名が記されていることである。
間違いとはそれが第五回名簿と書かれているが実際は第三回名簿だというである。
しかし何故かその「無名戦士の墓」への合葬名簿の事は本では省かれている。
この雑誌連載と本との差異は後世の短歌研究者の碓田のぼる研究にテーマを与えるものかも知れない。
何れにせよ「石川啄木と杉村楚人冠」という全く新しい視座を啄木研究者に送ったであろうこの新日本歌人誌上の連載の完結と著書の出版をお祝いします。
この本の最後の部分を紹介してこの文の終りともします。
「 楚人冠が「白馬城」と名づけた、広い斜面に立った旧邸は、2011年に杉村楚人冠記念館となって開館した。楚人冠は没後六十六年目にして蘇ったのである。
今日も時代閉塞状況は、私たちをともすれば「暗い穴の中」へ追い込もうとしている。そうした時、百年前の明治の秋に、啄木と楚人冠との間に生み出された人間的親愛は、今を生きる私たちに、安堵と確信とを与えるものとして、蘇ってくるのである。」
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