新日本歌人10月号、11月号、12月号の感想を一挙公開です。
新日本歌人10月号、11月号、12月号の感想を一挙公開です。
書いている間に選で取り上げた田中収先生の訃報が届き残念な思いです。
田中先生の功績を顕彰したいと思います。
先生のご冥福をお祈りします。
「新日本歌人」10月号
10首選です。
1.感情は強強として昨日今日虐待の記事に涙流れず
檜葉奈穂 p2
2.我が胸は潮騒のごと騒ぎたつなぜ逢わざりきもう逢えぬとは
安武ひろ子 p8
3.ねばっこい涙流しつつ母亀は二百個の卵一度に産みゆく
赤崎耀子 p10
4.無量無辺の命海溝に惨くのみ波頭うるませて三月はくる
碓田のぼる p18
5.熟したる柿の実ポトリと落つるごと夫との別れ思う日のある
伊藤敦子 p24
6.試練続く我に励ましの便り届く終の故郷新日本歌人は (特選)
加来和江 p25
亡夫と来し町の食堂かの時と同じメニューの昼食をとる
寺島萬里子 p50
7.その都度に支持訴える電話掛け定点観測の位置果たしおり
久保田武嗣 p54
8.短冊を、
棺に入れる。
父の俳句の、
字はふるえている。
小山尚治 p65
9.汝を遂に読み切れぬまま別れんか赦せわが非力、なおゆかしき書
高島義巳 p72
10.忌まわしき学徒出陣に檄飛ばす茂吉の「萬軍」ガラクタ歌集
読者歌壇
町民歌うたえぬ子らにふるさとの学校かえしてと老女が訴う
北爪百合子 p84
小山さんの行わけ短歌は初めて拝見した。
行分け短歌の中心的存在になって欲しい。
特集は日本の歌「高齢・介護に生きる」。
毎号高齢の方の歌が多いので毎号特集しているようなもものだがあらためてまとめて読むとその質の高さを思った。「作品五首と300字」という企画の300字が良かった。特選にあげた歌の作者の加来和江さんは私の大学時代の友人の母堂である。
加来さんの「作品五首と300字」の「終の故郷」に心が動いたので一部紹介します。
前略
「 八年の抑留を経て祖国日本の土を踏んでから六十年、慣れぬ言葉と日雇いの過酷な暮らしに健康を損ね、それでもがむしゃらに生きてきた。抑留中に父と長女を失い、必死に育てた長男も昨年身罷った。全く思いもかけず埼玉から、東京から、茨城から、山口から、佐賀から歌友の励ましのお便りが届いた。悲嘆のどん底にのめりこんでいた私にである。「新日本歌人」は私の故郷となった。」
後略
まだ若かったご子息さんのご冥福をお祈りします。
水野昌雄さんの「挽歌はいらずー高齢者短歌の課題」が参考になる。
取り上げている歌は矢代東村、渡辺順三、佐々木妙ニ、坪野哲久
佐々木先生の歌を二首紹介する。
八十過ぎて余生は静かに送れという
静かに送れる世に生きているのか
ぼくにもし、恃むものありとすれば、
唯物論者として 生きた人生
他に以下があります。
憲法随想 交通違反者の思い まひる野 中根誠
短歌随想 風化させてはならない戦争詠 長 勝昭
新日本11月号
10首選です。
1.つぎつぎとイワシの頭をもぐ指がふいにとまりぬ哀しみに触れ
伊藤青 p2
2.父の齢いつしかすぎて対峙する伊方原発三基の明日に
大川史香 p5
3.当選に一人拍手とバンザイをくり返したり夜更けの部屋に
瘧師美智子 p10
4.漫然と生きて来しならんか今はただ想像力欲し高き雲すでに紅く
菊池東太郎 p10
5.詐りの"もんじゅ"の知恵を峻拒して人にやさしき火をし求めん
小山尚治 p19
6.TPPは瑞穂の国の主なる農の寝首を掻くにあらずや
佐々俊男 p20
7.おのこなべておみなを犯すと言うごときかの発言に怒れおのこよ
河村美枝 p26 (特選)
8.当選数あと「1」欲しと友もいう 人の欲とはきりのなきもの
金沢邦臣p26
9.八月九日は、
登坂潤が長野刑務所で獄死した命日
古びた"科学論"手に取る
宮田哲夫 p29歌人
10.けんめいに、ひとは、生きている。
みな、いとおしく。ー
往き来眺めている。
スーパーのベンチで
田中収 p62
河村さんの歌を特選にしました。
怒るおのことしての共感からです。
ここら辺に人間の生き方の分かれ目があるように思います。
選挙の歌が多かったのですが累計的な歌が多く、あまり取りませんでした。
瘧師さんの歌を選挙の歌の代表として選びました。
読者歌壇よりの一首
さい限なく流れ続ける汚染水海を見つめる漁師いくたり
大山友子 p88
他に今回はコメントしませんがこれらがありました。
夏のセミナー報告
憲法随想 理念と平和 アララギ派 常盤井猷麿
短歌時評 老いの歌労働の歌など 長勝昭
夏休み「親(孫)子短歌作品」応募作発表
「親(孫)子短歌作品」はなかなか面白い取り組みです。
私が幹事を務める文団連の会議で紹介したところなかなか面白いと評価頂きました。
特に孫の歌が面白いとのことでした。
ちなみに最初の歌はこの歌です。
<孫の歌>
ちちははを思いうかべてゼロ戦の若い兵士は敵につっ込む
千葉 行木 創太 14歳
<祖父の歌>
パプリカの赤と黄葉書をはみ出して"戦争反対"姉の絵手紙
千葉 行木 幹雄 80歳
「新日本歌人」12月号
今月も必死の思いで全てのページを読んだ。
老いの歌、病の歌が多い。
全国的に友人がいるので昔から知る人やその連れ合いの病気の歌も多い。
結構意識をしているのだがあまり若い人の歌や冒険をした歌は見つけらなかった。
10首選です。
先月までと結構同じ人が出て来ますがあくまでも私がいいと思った歌であり、一切の配慮はありません。
1.ひかり、ゆり、さりな、あゆな、と曽孫らの名を呼びてみる歌詠め夜は
長崎田鶴子 p6
2.今年こそ来年こそとかたくなに作りてきたり山間の小田
森田アヤ子 p34
3.別れ来て月危き心を鎮めんと氷カラカラ鳴らし水飲む
安武ひろ子 p34
4.TPP反対のポスター冠雪の富士はどっしり構えて動ぜず
山川康夫 p35
5.妻を守りここよりは退くまいと灯をともせば天井より重重とかなしみが降る
碓田のぼる p47
6.半日の、
パソコン作業。
エンターキーを強く叩いて、
昼休みに入る。
小山尚治 p61(特選)
7.行分けは俺一人になっても
" やめない"と言う
赤石茂さんに会った
若い日に会った
井口牧羊 p64
8.事あらば人を殺せるようにする平たく言えばそれが改憲
佐々俊男 p72
9.生者死者の思い通わす日和山慰霊碑いくつ花に飾られ
清水勝則 p74
10.最大の防御は攻撃ならずして仲良くすること人も国家も
下村すみよ p74
読者歌壇よりの一首
その人の名札に「派遣五」とあるを見し一日の動き鈍かりき
高橋幸子 p96
小山尚治さんの歌を特選にしました。
あまりこの雑誌で見ない現代の労働歌でしょう。
今回は歌以外は触れませんが興味深く読んだ記事のタイトルと著者だけ紹介しておきます。
特集この一年の成果と展望
<協会>情勢に応えた創造、急がれる組織体制強化 清水勝則
<歌壇>時代に生き、時代を刻む 津田道明
憲法随想 戦争を憎む心 未来 間鍋三和子
<評伝>回想の山原健二郎 碓田のぼる
<短歌時評>問われる現代短歌の基盤 長勝昭
<この一年 わたしの選んだ十首>
(十二人が選んでますが新しい人がたくさん参加してます。)
月評も短歌時評も含めて新しい人が多く登場しています。
以上です
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