花芯 ・佐々木妙二歌集選歌15首
花芯 ・佐々木妙二歌集選歌15首
大津留公彦
麻酔にはいる患者の肢体の
緊張の
とけゆくまでの 数秒をまつ
いたわりが 私にあったら
君の眼は
もっとおだやかに なっていたかも知れぬ。
黒髪ゆたかに
こころすなおな吾娘のため
よい青年よ あらわれてくれ
その瞬間
日本人をわすれ
人間をわすれ
なぐり 蹴ちらしたら若い警官ら
あの青年の なにに娘がひかれたのか、
父にはわからぬ、
わからぬともいい。
二十年、そばに暮らしてきた君に
言わないことが
あまりに多い。
安保破棄の
デモの中にいるのだと思いながら
また 昏睡におちてゆく
十幾人の血が
私の性格を変えるという、
信じがたいが、そうかも知れぬ。
抵抗なく
安保・自動延長にはいっていく
この夜 静かな 時間の経緯
この壺に まつわるおおもいに
かかわりなく
美しい形に
壺は そこにある。
癌手術の余命五年と掲載され
なすべきことの
やりくりつかぬ。
癌病みの おのれ自身を
見きわめて
なし得ることの ひとつに 向かう
果たしたい事ひとつあり
癌病みの私の生命
いま暫く 保て
ありふれた夫婦わかれの 一つという、
そのひとつ ひとつの
単純ならぬ。
「党に生き
残る生涯を全うせよ」ーー
友のはげまし 胸いたくきく
以上
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