佐々木妙二歌集 「生」より十二首選と感想
佐々木妙二歌集 「生」より十二首選と感想です。
一切の批判を拒否して従いてきて
生涯を賭ける愛であったか
おとこ・おんな 疑うことなく 共に棲む
鳥も けものの 同じ形に
老い枯れて 杉が一本 雪原に つったっている
どう見ても 私だ
つきつめて話しあいつつ腹の底に
固まってゆく妥協の限度
多数意見さもあらばあれ
孤立するものの強さに 敢えてものいう
女体から切り離される ひと塊の
血肉に 生命 生きてひそむを
中絶の手は洗うとも つきまとい
洗い落とせぬもの なにかある
集団のきおいに人はついてゆく
取り残されるも ひとつの意志ぞ
善良な老人などになることはない
憎み徹せよ 美しいまでに
幾人の命に関わり持つメスを
清しく拭うて ケースに納める
人に逆らい ひとすじの道を歩いてきた
添いくる妻にも 泥をかぶらせ
歩けなくとも それなりに私は生きてゆく
のぼれない石段は
のぼらないだけ
ーー
感想
1983年に出た八十歳の佐々木妙二の第六歌集である。
多くは癌の後遺症と下半身麻痺状態での歌である。
新日本歌人協会の代表にして優れたまとめ役であった上の、この自己内省の透徹さに驚く。夏目漱石の個人主義をも思う。
歌集の題が示すように多くが生命の歌である。
解説で水野昌雄氏は「風景を描く水彩画家ではなくして、常に人物像を持
もってする油絵画家であり、彫刻家的であるともいえよう。」と書いている。
対象は常に人間である。
そしてその作歌姿勢は戦前・戦中から変わらないという。
妙二の作歌姿勢と現代語短歌に学びたい。
ーー
以上です。
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