「短詩形文学」の2019年10月号を読んだ
「短詩形文学」の2019年10月号を読んだ
毎月送って頂いてますがいつも斜め読みしています。
しかし今号は垂直読みをしました。それは行けなかった8・15を語る歌人のつどい特集だったからです。
特集内容は以下です。
海老名香代子「残された一つの命」
短歌リーディング「わたしたちの日本国憲法」(沖ななも他)
市川八重子「満州における少女時代の戦争体験」
小石雅夫「軍人でない海員としての戦死~暗き眼窩に魚の棲めるや」
海老名香代子さんのお話は壮絶です。三月十日の東京大空襲で、両親、兄二人、弟一人、祖母の六人をなくし一人だけ残されたそうです。その後沼津、能登と逃れ、戦後近くだった三遊亭金馬師匠の世話で林家三平氏と結婚し、夫が亡くなったあとは毎年三月十日には焼け跡を歩き始め、今は毎年三月九日に上野で「時忘れじのつどい」を開催しています。
海老名香代子さんもそうだった孤児が戦後十二万人居たがその半分は餓死で亡くなったと言う。悲しい、だけど忘れてはいけないことだと思います。
海老名香代子さんの以下のような平和万葉集の歌も紫あかねさんによって朗読されました。
焼け跡に一人ぼっちの十二の子なぜ皆死んだのと天を突き泣く 香代子
市川八重子さんのお話の悲しいものでした。
敗戦前一週間にロシア軍が侵攻し、ロシア軍と中国国富軍と八路軍が闘い翌年の米軍の進駐まで無政府状態だったこと。色白い男性が連れて行かれ女性でないとわかり殺されたこと。自殺用に手榴弾を渡されたこと。十三歳で兵士にならされた子どもがいたこと。満蒙開拓青少年義勇軍と呼ばれた十八・十九の若者が長野から六千六百人も出ていること。引揚列車で「おっぱいが出なくなった」とつぶやいていた母親が赤ちゃんを抱いて列車から飛び降りたこと。多くの話が胸を撃ちました。
二千体焼きし満州の湿原に姫百合の朱わが目を射ぬく 八重子
最後はわが新日本歌人協会代表の小石雅夫さんのお話でした。
これも聞いたことの無い話でした。
小石雅夫さんの父は敗戦の二十日前に小石さんが小学校の三年生の時に亡くなった。
疎開勧告を受けて愛媛の宇和島から軍部の町に移り八月十五日を迎えた。
一年経った頃父のこういう死亡通知が届いた。
「昭和二十年七月二十七日、敦賀沖三十海里において、潜水艦の雷撃による戦死」
大阪商船の合同慰霊祭に参加し貰った骨箱には「小石熊一之霊」という紙切れ一枚が入っているだけだった。
父の五十回忌を松山で行った翌年の父が死んで丁度五十年になる日に敦賀の海を見に行って、「おやじーつ、おーやじーつ!」と大きな声で叫んだ。
そのあと神戸の海員会館の「戦没した船と海員の資料館」に行き民間の船と海員が消耗品扱いだったことを知る。太平洋戦争船員の手記「海なお深く」には当時の船員は三十万弱で、その内死者は六万強という事です。更に当時のアメリカ海軍の日報を見せて貰い父が乗船していた筑前丸は雷撃を受けた時間が午後九時頃だったことまで判った。
ここには以下の衝撃的な記録がある。そこには日本政府がポツダム宣言に答えず、従ってトルーマン大統領が原爆投下の指示を決定したと書いてあったという事です。
ポツダム宣言の受諾がもっと早ければ小石さんのお父さんの死もなかった可能性がありますし、沖縄戦やヒロシマやナガサキの惨禍もなかったかもしれません。
戦争をしない、させない思いを痛切に思う講演でした。
海深く父の髑髏の沈みいて暗き眼窩に魚の棲めるや 雅夫
8・15を語る歌人のつどい特集は以上ですが八月号についても書いていますので紹介します。新日本歌人2019年8月号の「受贈誌拝見」に書いた文章です。
短詩形文学8月号NO751反戦平和特集
冒頭に水野昌雄さんの<戦後短歌史抄>
作品と時代(336)が置かれている。
8月に反戦平和特集を組んでいるのは新
日本歌人と同じ。本号には新日本歌人で連
載中の英国在住の世界樹の渡辺幸一さんの
「国際社会と沖縄と短歌」という12頁の
評論が圧巻であった。芥川賞作家日取真俊
や紅短歌会の玉城洋子の作歌と行動の統一
の様を書いている。曰く「玉城氏らは辺野
古での座り込みを通して権力の重圧を肌で
感じ、それを歌に詠んできた。彼らにとっ
て抗議行動と歌を作ることは車の両輪なの
だ。沖縄では時代と歌がそのような形で繋
がっている。」他に52編もの「戦後七十
四年と私」と題したエッセイが掲載されて
いる。新日本歌人で見慣れた人の名もある。
作品はあいうえお順に並び会員は10首で
購読会員は3首です。総頁数は68頁で、
会費は2千円、購読会員費は800円です。
(発行人 下村すみよ)
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