田中礼歌集「燈火」を読んだ
田中礼さんの追悼短歌は既に発表していますが、この度処女歌集にして遺稿集となった歌集「燈火」を頂きましたので感想文を書き奥様にお送りしました。
謹んで哀悼の意を表します。
以下です。
田中礼歌集「燈火」を読んだ 大津留公彦
田中礼さんはこの本の発行を待たずに二〇一九年九月十三日に亡くなった。
私がお会いしたのは二〇一八年五月に京都で一回だけである。
文団連の全国交流集会が京都で行われ空いた時間に新日本歌人の京都歌会に参加した。
皆さんが一首ごとに田中さんに感想を求めていたのが印象的でした。
その前の時間に一緒に食事をしたにしんそばの味が思い出深いです。
お送りした会員・購読者の名簿の京都分のコピーを取られて皆さんにお配りしていた。こうやって全国でこの名簿は使われているのだと思い感慨深く、京都は会員が増えるだろうと思った。
田中さんとは新日本歌人、国際啄木学会でご一緒だったが、田中さんは日本ホイットマン協会の会長でもあった。今後ホイットマンを読んでみたいと思います。
二八一首の中から以下十二首を選びました。
P22 病臥五年/今は治ったらとは思うまい/この日々が僕の現実なの
P49 吾がために紺の手袋編む君が歌うがごとく編み目を数う
p65 ナジの政府ソ連が倒すをよしとするビラ書けること生涯の悔い
p75 「否定的」な本も読ませて/語らせろ/そこから強い肯定も出る。
p81 風に鳴る大樹よ語れ学徒兵ここに集いて出征たる日を
p94 出て来るは新妻なればたじろぎぬ通告に行きたる離脱者の家
p99 河上教授かかぐる燈火守りたる人らに連なるひそかなよろこび
p115 二十一世紀生きる子歌子思い切り声上げて泣け朝日差す部屋
p116 子にものを食わすをただに喜べる父思い出づ子の食う見れば
p158 結局は玉座の前にさえずるや「前衛」短歌の旗手生ける果て
p193 日々進む癌治療法の
恵みうけ
八十六歳 歳晩の日々
そして 歌集には掲載されてませんが、「あとがきにかえて」で奥さんのひな子さんが紹介するこの歌です。
楽鳴りて童話終わりぬガラス窓に淡く夕焼けの光さす時
「あとがきにかえて」から紹介します。
「この歌いいでしょう。ラジオドラマの終わりかしら、イメージがくっきり浮かんで・・。」
「えっ、これ、僕の歌なんやけど。」
「ええっ、ほんとに?」
これが夫、礼と私が短歌について語り合った最初の会話だったと記憶する。結婚したてのことだった。
若い夫婦の短歌についての会話にほのぼのとした。
歌友であり戦友であった田中礼さんのご冥福をお祈りします。
二〇一九年十二月十八日 大津留公彦
参考
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