上田精一平和歌集 「生きる」を読んで
これは「直球、剛速球のダルビッジュのような」社会詠の歌集である。上田さんは新日本歌人協会の熊本・人吉で人吉支部を運営されていたが、現在は次女の嫁ぎ先の長崎・南島原市に移られ頑張って居られる。あとがきによると上田さんは同じ国語教師だった佐土原盛さんに“欠詠はすまじ“と勧められ新日本歌人協会に入会し2004年1月から現在まで毎月8歌の投稿を継続されている。ここに掲載された歌は故郷、夫婦、戦争、原爆、沖縄、多喜二、震災、旅行、追悼の章に分けられ多岐に及ぶがこれこそが社会詠だという気がする。十首選びました。旅行詠が多くなりましたが中国での旅行詠では戦争行為への作者の恥や反省の気持ちが深く伝わって来ました。貴重な歴史の記録だと思いました。
この歌集が多くの人に読まれることを希望します。
P70 血と汗と命をささげし人ありてついに緒に就く核廃の道
P71 酒酌めば涙ぐみつつ亡き友は「イムジン河」を歌いておりし
P170 多喜二らの無念晴らさんか旗幟高く国賠同盟支部は立ちたり
P187 五十分児童らここに待たさるる「山に逃げておれば」の無念募り来
P201 二百万の餓死者葬る墓地に座し日本の占領詫びて手合わす
P204 うつぶすは女性の骨か腹部には丸く小さき胎児のみ
P207 早暁に寝台列車は南京に肩身の狭き旅の始まり
P212 「チョウセンピー」「チャンコロ」などと呼ばわりし少年の日々を恥じて降り立つ
P218 山奥にトルストイと向きあいて訳しし作品二百を超ゆる
P222 やわらかき薩摩訛りの君逝きぬ歌人の会に我を誘いし
あとがきからご夫婦の二首
生ききたるジグザグ道のわが行路ただ真っ直ぐは反戦の道 精一
左腕左脚より萎えていく難病なれど前向き生きる 廸子
大津留公彦(おおつるきみひこ)新日本歌人協会常任幹事
(「治安維持法と現代」NO39 2020春季号 掲載)
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