東海のの歌は啄木と雨情の合作
野口雨情記念館での表示はなかったが、啄木と雨情は函館と札幌で親交があった。読んだ本にあった啄木と雨情との関係の部分を紹介します。
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民謡詩人で塩原温泉「和泉屋」の主人、泉氏が、雨情から直接聴いた話として、「一悪の砂」にある啄木の有名な一首、
東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたわむる
をめぐるエピソードが伝えられている。
この歌、原作は、
東海の小島の磯の渚辺に
われ泣きぬれて
蟹と遊べり
であったという、啄木からこの作品を見せられた雨情が、
「石川さん、これでも良がんしょうが、渚辺は白砂に直した方が良いと思いやんすね。それに遊べりでは子供っぽく聞こえるので「『たわむる』と書き直した方が良いんじゃありやんせんか。私やその方が良いと思いやんすがね。」
といい、いわば合作であの名歌になったという。磯は「なみうちぎわ(の岩の多い所)のこと、渚も「なみうちぎわ」のことで、原作は表現上のダブリがあってよくない。「白砂」は音も澄んで楽しいし、歌のイメージにもぴったり合っている、「遊べり」は、単なる説明に終わっているが、「たわむる」は「われ泣きぬれて」をうけ、青春のやるせなさをよく表している。
啄木の代表作が雨情の添削の結果というのは、啄木ファンには複雑な思いも残ろうが、それよりも、わたしは、あの人一倍自信家でプライドの高い啄木が、雨情の意見にこころよく従ったことに注目したい。同じ思想での意気投合の深さのあらわれとみることができるのではないか。
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奈良達雄「野口雨情こころの変遷-「枯れすすき」や「赤い靴」が問いかけるもの より
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