今国会で空襲被害者救済法の成立を!
5月17日付の赤旗日曜版に以下の記事が出た。
全文を紹介します。
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歴史に向き合う 空襲被害者はなぜ救済されない?
歴史の風化待つ政府 過ち繰り返す恐れ
記憶を記録に残さなくては
【5月17日号】
メイン画像
焼け野原となった両国かいわい。からくも焼け残っているのは旧両国国技館(丸屋根の建物)と両国小学校(左)。隅田川に架かる橋は新大橋=1945年9月28日(近現代フォトライブラリー)
戦後81年になるにもかかわらず、民間空襲被害者には何の救済も補償もありません。なぜ国は放置するのか。私たちの戦後と救済を阻んでいる「戦争被害受忍論」について考えます。
本吉真希記者
東京大空襲描いたドキュメンタリー映画「ペーパーシティ」 エイドリアン・フランシス監督
オーストラリア出身の映画監督、エイドリアン・フランシスさんは、日本の空襲体験者を取材するなかで、憲法9条が果たす役割を知りました。ドキュメンタリー映画「ペーパーシティ 東京大空襲の記憶」(2021年製作)を監督しました。
オーストラリアで育った僕は広島・長崎の原爆以外、日本全国に空襲があったことを教わってきませんでした。だから東京に引っ越してきても、東京大空襲があった事実を知りませんでした。
16年ぐらい前に「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」(2003年製作)というアメリカのドキュメンタリー映画を見て、初めて東京大空襲があったこと、一晩で10万人の市民が殺されたことを知りました。僕が住んでいる都市が攻撃されていたことにびっくりしました。「歴史上、最も破壊的な空襲」といわれていることもあとで学んで驚きました。
日本人も知らない
僕がとてもショックを受けたのが、こんなに激しい攻撃だったのに、日本人の友達や同僚に詳しく知る人があまりいなかったこと。そして東京に公的な資料館がないなど、空襲の痕跡がほとんどないことです。
過去を学び、犠牲になった人たちを記憶することで、自分たちのアイデンティティーになるはずです。しかし東京には空襲がなかったかのようでした。それはなぜなのか。この疑問が映画を作るきっかけになりました。
僕は声なき声を社会に広げたいと思って、大学でドキュメンタリー映画を学びました。それは僕がゲイで、自分の存在が無視されていると感じてきたからです。僕は権力を持っている人たちを信用できません。権力者は東京大空襲の事実を隠したいのではないか、という疑問もありました。
撮影は戦後70年の15年から2年間行い、3人の生存者を中心に取材しました。3人と親しくなるうちに、3人とも“記憶の活動家”であることを理解しました。
彼らは人生の晩年まで空襲の恐ろしさを伝える証言活動や、犠牲者の名前を記した記念碑の建立、国による民間人への不平等や不正義を訴えていました。私たちや次の世代が戦争の道を選ばないように、ずっと頑張っていたと思います。
空襲被害者は長年、日本政府に救済を求めていますが、ずっと無視されています。僕は被害者から「政府は私たちがいなくなるのを待っているんだ」と何回も聞いてきました。僕個人としては、空襲の歴史が風化されることも待っているのかもしれない、と感じます。
平和憲法こそ「美しい日本」
暗い歴史の事実を受けとめたくないと考える政治家はオーストラリアにもいます。安倍(晋三元首相)さんは「美しい日本」とよくいいましたが、それは自国の加害を受け入れないことです。
僕が考える「美しい日本」は80年間、平和を守ってきた日本です。平和憲法は、車のサイドブレーキのような機能があると思います。いま日本にはサイドブレーキがあるので、戦争の加害者への道はありません。日本のみなさんは平和憲法を誇りに思ってほしいです。ほかの国々も日本の平和憲法を見習ってほしい。
映画「ペーパーシティ」はチェコの作家、ミラン・クンデラの言葉「権力に対する人間の闘いとは、忘却に対する記憶の闘いである」から始まります。取材をした1人、星野弘さん(18年死去、東京空襲犠牲者遺族会会長)は、戦後70年のとき「私たちが生の声で語り継ぐのは最後のチャンス。あとは後継者に任すしかない」と語りました。
撮影した3人はすでに亡くなりました。3人とも、将来の日本がまた過ちをくり返すのではないかと恐れていました。3人の話を聴いて記録した僕には、語り継いでいく責任があると思います。
1974年、オーストラリア生まれ。2008年から東京を拠点に活動。デビュー作の「ペーパーシティ」は第7回メルボルン・ドキュメンタリー映画祭で最優秀メルボルン・ドキュメンタリー賞、最優秀新人監督賞を受賞、東京ドキュメンタリー映画祭2022で観客賞を受賞
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戦争の違法性 総括できない日本
東京大空襲・戦災資料センター館長、一橋大学名誉教授 吉田裕さん
戦争被害受忍論を克服していくには、戦争そのものの総括と戦後史の総括が必要です。戦争の総括がされていないから、戦争を理論的に批判する能力が身につかない。被害は悲惨だったけれど“やむを得ない”“仕方がない”という議論から出られないのです。
戦後史の総括とは、日本社会がどのように戦争の歴史に向き合ったのか、向き合ってこなかったのかを検証することです。きちんと検証しなければ、自分たちが立っている時代の弊害が見えてきません。
東京大空襲でいえば、日本政府は直後にスイス政府を通じてアメリカに抗議をしました。ところが戦後になると、国際法上の違法性を明言できない。安倍内閣は「人道主義に合致しない」が「当時の国際法に違反して行われたとは言い切れない」と答弁書でくり返しました。戦前の立場より後退してしまっています。
政府がアメリカのイラン攻撃に対し批判的な立場に立ちきれないのは、戦争の違法性に対して曖昧な姿勢を積み重ねてきたからです。日本社会の中に、国際法の立場から戦争を批判する力をつけていくことが重要です。
「命奪われても我慢するもの」=戦争被害受忍論の不条理
国民巻き込んだのは国 補償するのは当然の話
戦争で市民が巻き込まれ、命が奪われたり、傷つけられても、戦争なのだから我慢せよ―。政府はこの「戦争被害受忍論」を盾に、空襲被害者の救済を拒んできました。
戦争被害受忍論とは「国家の非常事態である戦争では、生命・身体・財産に被害を受けても、国民は等しく受忍(我慢)しなければならない」という理屈です。1980年代初め、原爆犠牲者への弔慰金や遺族年金の創設を否定する行政施策として示されました。一方、軍人・軍属には累計60兆円の恩給や遺族年金が支給されています。
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10歳で孤児になった中島邦雄さん(91)。学童疎開中の45年3月10日、東京大空襲で両親と8歳の妹、5歳と2歳の弟2人を失いました。
国は防空法で「逃げるな、火を消せ」と国民に消火義務を課しました。「国は民間人を戦争に巻き込んだのだから、補償するのは当然です。なかでも孤児たちはそのまま社会に放り出された。戦争を起こした国が補償しないのはおかしい」と中島さんは憤ります。
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河合節子さん(87)の母(当時35)と3歳、1歳の弟2人も東京大空襲の犠牲者です。遺族らは公的な刻銘碑の建立を望みますが、行政は後ろ向きです。「私の目には、空襲をなるだけ目立たせたくないように見えます」と河合さん。根拠に挙げるのが、連合国軍総司令部(GHQ)の「指導方針」です。
方針は「日本国民に戦争を忘れさせたいのである」とのべ、戦災者が起案した慰霊塔の建立を不許可にしました。東京都長官官房渉外部長名の通知文(47年)に示され、方針が徹底されました。
河合さんは戦後の国の姿勢を批判します。「独立を回復した日本が戦争の忘却を引き継ぎ、補償を求める被害者の声を聞かなかった。聞けば莫大(ばくだい)な財政負担が生じるからです。それが受忍論につながったのです」
今国会で悲願の救済法成立必ず
空襲被害者らは二度と同じ被害者を出さないために、平和の実現と受忍論の不条理を訴えてきました。救済法の制定を粘り強く求めていますが、自民党内の抵抗で法制化は実現していません。
超党派の議員連盟は昨春、心身に傷を負った被害者への一時金50万円支給、被害の実態調査、追悼事業が柱の法案を決定しました。内容は被害者にとって不十分です。
それでも河合さんは法案の成立を強く求めます。法案前文で、受忍論によって政府・国会が被害者救済にとりくんでこなかった事実に初めて言及し、「恒久の平和の実現への決意を新たにする」と明示したからです。
河合さんは、米トランプ大統領による無法な侵略に「日本が巻き込まれるのではないか」と危機感を募らせます。高市早苗首相は改憲に強い意欲を示しています。「受忍論は未来に引き継がれている問題です。絶対に否定されないといけない。今国会で法案を必ず成立させ、前文の心=恒久平和をしっかり実現してほしい」と強く訴えます。
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