カテゴリー「読書感想文」の記事

2022年3月 3日 (木)

長野晃歌集「わが道をゆけ」を読んだ



長野晃歌集「わが道をゆけ」を一気に読んだ。長野晃さんと私には共通のキーワードがいくつかある。

新日本歌人、啄木、水野昌雄、大分、大阪、フェイスブック、五つの赤い風船、伊藤千代子

新しく教えられる歌が多かったような気がします。短歌の持つ特性の一つは伝承性、時事性だと思います。

新しい感慨と知識を与えてくれた長野晃さんに感謝します。病気もお持ちのようですが喜寿を迎えてますますご活躍下さることでしょう。

以下私の選んだ12首とコメントです。

p18幻影は「民芸」の舞台か宇野重吉と滝沢修が論じ合いおり
(こういう幻影なら見てみたいものです)

p22「わかるけどドキッとする歌作ってよ」投稿歌読む主婦に言われる
(この歌にはドキッとした。ありきたりの歌ではなく独創的な歌を作りたい。)

p27それぞれが粗末な額にはめられて父母の瞳が今朝も微笑む
(微笑む父母に私も励まされています。)

p34啄木は尊敬すべき歌人だと頌する茂吉の文を見つける
(これは知りませんでした。調べてみたいと思います。)

p38やばいすね!めっちゃ可愛い!のコメントを子のフェイスブックに見るのはやばい
(ありきたりではない歌ですね。このフェイスブックページは私も見させて頂いてます。)

p52じゃんけんを三回やってきめたという畑田氏の性は連れ合いの性
(畑田重夫さんはジェンダー平等を70年位実践していますね。私の会社員時代にもいました。こういう人が増えて行くのでしょう。)

p65切られても切られてもなお萌え出づる八つ手のように生きてゆきたい
(八つ手の生命力をこの歌のように見習いたい。)

p70扇町公園にひしめく集会に弟夫妻の歌声響く
(弟の長野隆さんが幻の名グループ元「五つの赤い風船」のメンバーです。)

p81戦争放棄の幣原喜重郎の提案にマッカーサー書簡は感動を書く
(これも最近知りました。幣原喜重郎の名を付けたフェイスブックグループに参加中です。)

p121伊藤千代子の名を聞くたびに胸底におのずからなるうごめきを聞く
(劇映画「わが青春つきるとも-伊藤千代子の生涯」は4月公開予定です。)

p146「文化には戦争抑止の力あり」アインシュタインへフロイト答えたり
(このフロイトの言葉は私が今事務局長を務める文団連のスローガンにしたいです。)

p161マルクスのポートレートに父の記す黒きペン字の Going My Way
(この歌集のタイトルにつながるお父さんの晃さんへの遺言です。)以上です。

2021年10月 7日 (木)

「グリーン・ニューディール」という本を読んだ。

Image

 

作者は明日香寿川という名前から女性かと思っていたが男性だった。

 

「グリーン・ニューディール」とは再生可能エネルギーや省エネへの投資を拡大させて、経済成長しながら、石炭などの化石燃料に依存する社会・経済システムを変え、貧困や格差の解消にもつなげようとする考え方だ。

 

気候危機を打開する日本共産党の2030戦略https://www.jcp.or.jp › web_policy › 2021/09 › post-882

 

にも影響与えている本のようだ。

去年の東京新聞の記事から紹介します。

 

1、温暖化問題が深刻で、再生可能エネルギーも安価になった今、海外では政府や企業が真剣に「環境も経済も」に方針転換している。日本は完全に出遅れている。

 

2、原発や化石燃料を重視する国のエネルギー基本計画にある。これを変えないと何も変わらない。

 

3、省エネの推進が鍵。グリーン・リカバリーを進める国は、どこもこの分野への予算配分の比重が大きい。「日本は省エネ先進国」といわれるが、神話だ。

 

省エネ推進「グリーン・リカバリー」が景気と温暖化対策の切り札

202091

https://www.tokyo-np.co.jp/article/52307

 

全くごもっともだと思います。

今度の総選挙で政権交代を起こし是非「グリーン・ニューディール」を進めたいと思います。

 

他にこんな動画があったので紹介します。

 

明日香 壽川「ポスト・コロナにおける東アジアのグリーン ...https://www.youtube.com › watch

2021年8月11日 (水)

首藤順子著「おみおくり」を読んだ

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首藤順子著「おみおくり」を読んだ

この本は兄の死に立ち会った筆者の日常を淡々と記録したおみおくりの記である。

筆者の夫が私の大学時代からの友人である。

その上に妻が長崎出身で夫が大分出身であること、兄と妹の二人兄妹であることの私との共通項があり自分に引きつけて一気に読んでしまった。

中にこんなフレーズがあった。

 

『夫はどんなときも「良一さんファースト」で考えていいと言ってくれた。ありがたい。根本的なところで、こんないい夫はめったにいないと思う』

 

この「夫」の優しい笑顔が見えるようだ。この妻は幸せだと思うし、こう思われる「夫」も幸せだと思う。

 

こういう兄と妹の交流もあった。

 

『しかし、何度も作っては捨て、作っては捨てをくり返していると、病気のせいとは分かっていても時々悲しくなってくる。兄の好き嫌いが多いこととこだわりが強いことを知っているから、「私の料理が気に入らないのだろう」と思ったりする。しかし、そんなことを察したのか、ある日兄が、「ごめん、食べきらん、はいらん。残して悪かなあ」と涙をこぼした。

私は一瞬でも兄に腹を立てたことを申し訳なく思った。』

 

献身的に兄に尽くす妹に打たれた。

こういう兄と妹の関係は素晴らしいと思った。

 

そしてこの本を読み終わった私にはある種の清涼感が残った。

 

自分は短歌で記録を残しているがこういう形の文章で自分と自分に関わる人の人生を残したいとも思った。

 

 

「おみおくり」

読みて心に清涼感

生き死に多く我にもありて 公彦

 

2021年4月17日 (土)

「栃尾郷の虹」を読んだー歴史を深く下降せよ

 

三郷の友人である玄間太郎さんの9冊目の小説「栃尾郷の虹」を読んだ。

著者の越後時代歴史小説4作目です。

先行3作は「起たんかね、おまんた」「黄金と十字架」「角兵衛獅子の唄」です。

本作は栃尾村に栃尾縞紬(とちおしまつむぎ)を完成し度重なる飢饉から村人を守ったオヨと生後すぐ別れ別れになった双子姉妹のサヨの織りなすドラマです。

なかなか出会わず最後に栃尾縞紬完成と共に出会う二人の運命は数奇でありドラマ性があります。著者の綿密な取材により、機織りや紬や着物の世界が緻密に描かれます。

この作品に込めた作者のメッセージはオヨの義父植村角左衛門に言わせた次の言葉です。

あとがきにこう書いています。

 

「庄屋角左衛門は、幕藩のお抱え農政学者の誰彼ではなく、一人の名もない百姓の女房が優れた開発を成し遂げたことに深い感銘を受け、心を動かされていた。世を進めるのは一握りの武士ではなく無名無数の民百姓ではないのか。底辺に生きる人々の中にこそ凄い人たちがいるのではないか。そう思わずにはいられなかった」

「歴史を深く下降せよ。無名の傑出した民百姓をこそ歴史の表舞台へ!時代歴史小説を書く私の変わらぬ立ち位置です。」

 

玄間さんの小説には必ず玄という漢字の付いた人物が出てくる。

その人物がどこに出て来るかと言うのも楽しみの一つです。

この「栃尾郷の虹」では医師玄庵として何度か出てくる。

 

場面の転換に景色が出てくるのが印象的です。こんな感じです。

・「オヨは身繕いをし、まっすぐに六之助をみつめ頭を下げた。ありがとう

蓮の花がポンと音を立て咲いたような気がした。」

・「母の生は終わりではない。母の教えは私の胸にずっと生き続ける。オヨはそう思った。

栃尾郷の山々に、美しい紅葉が始まっていた。」

・「いいか、庄屋を笠に着て驕り高ぶってはならない。百姓の言い分を真摯に受け止めねばならない。百姓が逃散することにないよう困窮者を助ける。年貢は、百姓の痛みにならないように心がける。凶作の年には飢餓に苦しむ百姓の手当てを忘れてはならない。分かるな。左兵衛」「空に暗雲が低く垂れこめ、やがて恐ろしい勢いで彼方へ走った。角左衛門は複雑な思いで眺めた。」そして最後はこう終わる。

・いつしか雨があがり、虹がかかっていた。虹は栃尾郷の山々をつなぎ合わせ、ややあって今度は二重になって村々を七色に照らした。燃える紅葉と虹の鮮やかな絢爛たる色彩がオヨたちを幻想の世界へ誘っていった。

「栃尾郷の虹」は新聞記者歴42年で培われた玄間さんの生み出した傑作小説です。以上

 

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2021年3月19日 (金)

お役所の掟―ぶっとび「霞ヶ関」事情を読んだ



お役所の掟―ぶっとび「霞ヶ関」事情を読んだ

この本は現役の厚生省検疫課長が書いた本です。

尤も初版が1993年です。ウィキペディアによるとこの本の出版後1995年に無断欠勤などを理由に懲戒免職になっている。(この本にもこの長期休暇については書かれている。)厚生大臣に処分の取り消しを求めて提訴したが敗訴して、フランスで暮らしていたが1999年にパリの病院にて結腸癌で51歳で亡くなっている。

 この本を読むと国会答弁の言葉の正確な理解が出来る。

「前向きに、鋭意、十分、務める、配慮する、検討する、見守る、お聞きする、慎重に 等」の意味である。多くの方はその言葉の国会での意味を知っているだろうが。

 

現役の役人がこの類の本を書くというのは異例のことだろう。

アメリカで助教授を務め精神医療で知見のある作者だからこそだろう。

こういう本は今後なかなか出て来ないだろう。

出てくるときは日本の役所風土が大転換した時だろう。

どんな感じか少し紹介しよう。

――ある日、私が率直にものを言いすぎることを批判してある幹部が、「『男は建て前』『女は本音』の世界で生きる。本音ばかり言っているのでは、世の中うまく回らなくなる。だから女は表舞台に出てはいけないのだ。お前は本音を言いすぎる。女のような行動をとってはいけない」と言って私のことを叱ったのだが、この発言の根底には「男尊女卑」の論理のもとに女性を職場から排除するだけでなく「女は男に従順たれ」の発想を守り抜くのが役人だ、そんな思想を守り抜くのが役人だ、そんな思想が見えかくれしている、と思えたのだ。――

こういう感じだがジェンダー平等はその頃よりも大きく進んでいるので今は少し違うかもしれない。

親子関係についてはこんな文章があった。

――感情・衝動をコントロールする心の基盤は、幼いころ育ってきた母子関係と深い結びつきがある。欧米型の母子関係は、幼少のうちから母親離れを推奨する。だから大人になったとき、自分たちの感情、衝動がかなり強くても十分に対処しコントロールできるようになる。もちろん、欧米型の夫婦関係が感情、衝動のコントロールに大きく貢献していることは見逃せない。夫婦がひとつのユニットを形成し、子供は一人の個人として扱われる。だから、子供の時から独立を意識せざるをえないのだ。中学・高校へと進学すれば、両親の「早く自立すべきだ」との考え方はいっそう加速度を増す。けっこう、月謝の高い大学教育も、親の援助なく自分ひとりでまかなう人が圧倒的に多いのも、母親離れが異なった形態をとって毎日の生活に浸透しているあらわれのひとつなのである。――

 中学校の終わりから海外に出た息子を見るにつけ、早い段階で母親離れが出来たと思うし、母親の息子離れが出来たと思う私はその父親であり夫である。

2021319日 大津留公彦

2021年2月 4日 (木)

「なぜ日本のジャーナズムは崩壊したのか」を読んだ

「なぜ日本のジャーナズムは崩壊したのか」

を読んだ。

昨日の「新聞記者」に続いて、望月衣塑子さんの佐高信さんとの対談本です。

佐高さんのあとがきによると、望月さんの好きな作家はアルベール・カミュで、好きな映画は「灰とダイアモンド」だという。

非常に渋い選択だがここには早くに亡くなったご両親の面影を見る。

望月さんは私の娘と二つ違いであり、佐高さんと私は七つ違いである。

まるで私と娘との対談のようである。

子の親への目線と、親の子への目線を感じた。

娘とこういう話はしたことはないが、是非話してみたいと思った本であった。

去年の6月に出た本で、私のよく見ているYouTubechoose  life  project」が立ち上がったという所で終わっている。

<佐高信 あとがき>より

衣塑子という珍しい名前は萩原朔太郎に関係があるらしい。「帰郷」と題する萩原の詩はこう始まる。

 我が故郷に帰れる日

 記者は烈風の中を突き行けり。

 ひとり車窓に目醒めむれば

 汽笛は闇に吠え叫び

 火焔は平野を明るくせり

 まだ上州の山は見えずや。

私はこの一節を何度口ずさんだかわからない。

最後に、望月に能村登四郎のこんな句を送ろうか。

 

 幾人か敵あるもよし鳥かぶと

 

<望月衣塑子 あとがき>より

 

「内閣記者会は世間からも見放されつつある。オフレコ取材を重視し、会見が形骸化すれば、会見も記者クラブも存在の意義がなくなるばかりか、今回の首相会見のように権力に利用されてしまう。このままでは日本のジャーナリズムは完全に崩壊することになる。政治部記者はもっと危機感をもつべきだろう。

 

ジャーナリズムが政治や社会の実相に近づき、真実を伝えていくには、何ができるのだろうか。異色の官僚やメディアで活躍した先陣たちとの対話を重ねてきた佐高さんの話は、示唆に富み、ジャーナリストとしての基本の姿勢について、考えさせられることだらけだった。読者の方々にとっても、本書が少しでも、これからの日本の政治や社会、官僚やメディアのありようを考える一助となっていただければ、うれしい」

 

以上です。

2021年2月 3日 (水)

「新聞記者」(望月衣朔子著・角川新書・2010年10月発行)を読んだ

新聞記者」(望月衣朔子著・角川新書・201010月発行)を読んだ

―ジグソーパズルのようにー

妻から回って来たこの本を読んだ。

43回日本アカデミー賞3部門を受賞した映画の原作だ。

映画の方はまだ見ていないが、ドキュメント作品の「i-新聞記者ドキュメント」は最近netflixで観た。

望月衣朔子さんの講演会も聞いた事があり、youtubeで見たり、facebookグループ「東京新聞望月衣朔子記者と歩む会」に毎日短歌を投稿していることもあり、親近感がある。

この本で彼女の生い立ちや母親に芝居に連れて行って貰い女優になりたかったことや、学生時代にオーストラリアに留学し死にかかったことや、吉田ルイ子にあこがれ全世界を駆け回るジャーナリストになりたいと思い、結局東京新聞の記者になった事を知りました。

 入社後は千葉、神奈川、埼玉で警察関係の取材で鍛えられ、権力に阿らない社会部の記者となった。

 演劇に連れて行って、吉田ルイ子さんの南アのアパルトヘイトの写真集を渡した母と、内勤を命じられ讀賣新聞に移籍の相談をしたときに「讀賣だけはやめておけ」と言った父の影響が非常に大きいと感じた。

ついでに言うと官房長官に質問する時等の彼女の大声は演劇仕込みなのだと知った。

あとがきの著者の最後の言葉を自分への戒めともするために引用して終わります。

――

大切にしている言葉がある。インドの独立の父と言われるマハトマ・ガンジーの言葉だ。

《あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないように

するためである》

 簡単には変えられないけれど、私自身が環境や周りに流され変わらないためにも。

自分自身が正義と信じられるものを見失わないためにも。たとえ最後の一人になろうとも。

これからも記事や講演などを通じて、多くの方に政治や社会の問題点を伝えていく。未来を担うこどもたちのためにも、今の自分にできることを一つ一つ積み重ねたいと思う。

――

202123日 立春 大津留公彦

2020年12月24日 (木)

「スマホ料金はなぜ高いのか」

スマホ料金はなぜ高いのか」(山田明著・新潮新書・20707月発行)を読んだ

友人から借りてこの本を読んだ。

政府の行うスマホ料金値下げキャンペーンの背景を知ろうと思って読み始めたが、自分が通信業界にいた事を思い出し一気に興味深く読んだ。

この本の一番言いたいことは第八章「旧態依然の電波行政」に書いている、電波行政の開放によって今からでも5G時代の盟主になれるということだろう。

そこの部分を要約して箇条書きで紹介します。

 

・総務省の電波行政が自民党のメディア支配の源泉になっている。

・民主党政権は電波法を改正して周波数オークションを導入しようとしたが安倍政権が元に戻した。

・米国でも欧州でも中国でも通信政策の中心は「電波を開放する」ことにある。

・日本で5G用に携帯電話会社に割り当てられた3.7GHz帯や4.5GHz帯の高周波帯は半径100mしかカバーできないのでプラチナバンド(700MHz帯)の電波に比べて比較にならないほど膨大な基地局が必要。

・米国ではプラチナバンドや高周波帯を含む多くの電波を投入する準備を進めている。

・固定電話時代から惰性で手を加えることもなく継続している日本の電波政策は、根底から見直す時期に来ている。

・放送業界の電波浪費問題がきっかけとなってプラチナバンドが一気に市場に放出され、電波ビジネスの環境ががらりとかわれば業界の新陳代謝も進むだろう。

・日本も早く米国や欧州の電波行政のスタイルに移行すべきだ。

・行政は電波の干渉防止など技術問題に特化し、それ以外の規制から速やかに撤退して電波を政治の世界から解放することが重要なのである。

・これまでの電波行政は、国民の利益や国の成長よりも総務省の利権拡大や携帯電話会社の利益を優先してきた。これが携帯料金高止まりの一因であることは疑いが無い。

・より深刻な問題は放送業界への天下りと裁量行政であり、放送局がろくに使わず浪費しているプラチナバンドの問題だ。これにメスを入れない限り、携帯料金高止まり解消は困難であるばかりか、5G時代の日本の成長は絶望的と言っても過言ではないだろう。

・放送局に割り当てられているUHF帯ホワイトスペースには未使用帯域が30チャンネル以上ある。いわば放送局に割り当てられた広大な土地にポツンポツンと小さな放送用建物が建っており、大部分の土地を有効活用出来ず空き地のまま遊ばせている状態。この虫食い状態に建てられた放送用設備を一箇所に集約しその結果生まれる広大な土地を携帯電話事業に用途転換したらどうか。そうすれば携帯料金は半額になってもおかしくない。

他の八章についても興味深い物があったがここまでとします。

元文科次官の前川喜平さんへの揶揄が少し気になったが、それ以外は賛同できる本でした。

20201126日 大津留公彦

「田中礼先生を偲んで」を読んだ

「田中礼先生を偲んで」を読んだ

2019年に亡くなった田中礼先生の追悼文章である。

53人の方が追悼文を寄せている。

多方面からの追悼文であり内容豊かな良い追悼文集と名っている。

私も次の二つの文を掲載して頂いた。

 

  社会・自己一元の生を写すー田中礼評論集「時代を生きる短歌」を読んで

  田中礼歌集『燈火』を読んで

 

短歌による自分史であると共に日本の戦後史ともなっている。

60年安保の青春像の評価の歌などは短歌の歴史に一石を投じるものであろう。

 

娘さんの田中歌子さんの「はじめに」に引用されている歌です。

 

  よき人らこの一生に知り得たりと賀状読みつつ心和ぎゆく

 

田中ひな子夫人の引用している二首です。

 

  一番にやるべきことをわきへおき、二番三番で日々が過ぎゆく

  「急にみんながやさしくなったひょっとして?」など惑いつつ寝ているのでは

 

優しい奥さまや娘さんに見送られて最初で最後の歌集『燈火』を残し、88歳で亡くなられた田中礼先生は、実りある豊かな人生を送られたと思うのは間違いではないと思います。

 

20201224

「クリスマス・イブ」を聞きながら

大津留公彦

 

非売品ですがご希望の方はご連絡ください。

 

2020年9月 2日 (水)

「中国は社会主義か」を読んだ

「中国は社会主義か」を読んだ

この本は五人の中国に関する第一級の研究者(芦田文夫、井出啓二、大西広、聴濤弘 、山本恒人)が論考をやりとりする中で生まれたものである。

基本的に社会主義への好意的理解があるからこその表題だろうと思う。

やや理解に難しいところもあるが今後アメリカを抜いて世界一の経済大国になろうとしている中国の理解には必要な本だろう。

きくなみ弘のまとめを中心にその比較をしてみる。

  • 市場経済から見た中国は?

芦田文夫、中国は市場経済を通じて社会主義への途中。但し市場経済の暴走は許されない

井出啓二、「社会主義市場経済」論。社会主義も市場経済である

大西広、中国は社会主義を目指す私的資本主義である

聴濤弘、「社会主義を目指す国」ではなく「限りなく資本主義へ」である

山本恒人、中国の市場資本主義は現状観察の視点からは「大きな政府型資本主義」であり理論的な認識からは「国家資本主義」である

 

夫々の論者の発言の中から興味のある所を拾ってみた。

  • 芦田文夫、

「中国は時代区分でみると「半封建・半殖民地社会」から「新民主主義」(194951)、「資本主義から社会主義への過渡期」総路線(1953~)、改革・解放!(1978~)(市場経済化第一段階・第一段階)」 

  • 井出啓二、

「中国は、一定規模の生産書手段を社会が掌握し、マクロ経済制御を行い、階級・搾取の廃し、共同富裕化に向かっている社会と見え、社会主義と体制規定するしかないと考えている。階級社会の廃止方向、共同富裕化、経済の意識的制御がいぜん私にとっての社会主義の定義・基準である。」

「商品・市場経済を資本主義と等置する理解、あるいは柄谷行人のように、生産様式ではなく交換様式によって体制・制度を規定する試みは説得的ではないと考えている。「資本主義にも社会主義にも商品・市場経済はある、それは体制を規定するものではない」という鄧小平の断定の方が正確であろう。」

「周近平政権は、政治的には保守的または守旧的である。前政権期の民主主義的雰囲気が消えた面がある。他方、汚職撲滅、幹部の特権廃止、透明性の拡大、経済改革の推進の店では、前政権よりはるかにアクティブであり、実績を上げている。私は中国の政体の現状はアメリカの一部の学者が指摘しているように「限りなく民主主義に近い一党制」であると考えている。」

  • 大西広、

「私の生産力理論は故中村静冶大阪市立大学名誉教授に由来するが、氏は機械制大工業の下では資本主義しかありえず、したがって社会主義を必要とするのはまったく新しい技術体系であるとされていた。当時にAI技術は存在しなかったが、生きておられればAI技術を、新社会を必然とする技術体系として主張されていただろう。」

「史的唯物論のいう生産関係とは「形式」でどうでもいい「飾りもの」ではない。私はこのことと、先の「市場」論を合わせると中国は経済体制としては「限りなく資本主義へ」とならざるをえないと考えている。なお付言しておきたいのは「20世紀社会主義」の失敗は、生産手段の共有制そのものにあったというより、公有制のもとで(国有化であれ集団的所有であれ)どう労働者が労働のモチベーションをもつかという「労働の組織化」ができなかったところにある、ということである。それはいまの中国を含めていまだ発見されておない。「アソシエーション論」や「熟議型社会主義」といった積極的アイデアーが提起されているが具体的姿はまだみえてこない。これもマルクスの創造的発展が求められる点である。」

「共産党であっても政権党になった場合「国益」ということを考えて外交を進めなければならない。その場合、現実というものを見なければならない。しかし同時に現実をぶち破る斬新な外交路線を示し実行し現実を変えていく努力をかさねてこそ、政権についた共産党・社会主義政権の意義があるはずである。レーニンは政権につくとすべての民族の民族自決権を実際に認め、ただちに帝政ロシアの支配下にあったポーランド、フィンランド、バルト三国の独立を認めた。(中略)さらにソヴィエト政権が初めて国際会議に出席できた1922年のジェノバ会議で当時の凶悪兵器であった毒ガス兵器禁止条約の締結を提起した。これはインターナショナリズムとナショナリズムを正確に結びつけたものである。」 

  • 山本恒人

「林毅夫(北京大学新構造経済学研究院院長)の総括的論評は明快であり、中国の経済的成功の本質的要件を解き明かしている。なかでも「後発の利益を十分に活用できたという認識は経済学者として際立って優れたものである。彼が指摘するように「「後発の利益」こそ中国の今日の発展を理解し、説明する最も重要な視点だといえよう。」

――

他に香港問題なども議論されているが紹介しきれなかった。

チベットやウイグルのことも探求が必要だろう。

今回中国の内情についての認識をあらたにしたがまだまだ中国については知らなければならないことがたくさんある。

そして中国の歴史的位置付けや現状を知ることは日本の将来の姿も想像させる。

コロナ禍のなか、日本の政権が変わろうとしており、今後日本政治の激変が予想される。

政治の季節に社会主義というものをじっくり考えてみたい。

2020/09/01 大津留公彦

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