久坂部羊著『告知』を読んだ
妻に強く勧められて久坂部羊著『告知』を読んだ。
久坂部羊『告知』は、医療現場における「病名・余命・真実を伝えること」をめぐって、人間の倫理・弱さ・家族関係を鋭く描いた連作短編集(全6篇)です。
人はいつか死ぬ。
妻が先か私が先かは分からないがその時は必ずやってくる。
後期高齢者近くになってそれは前にもまして強く感じる。
今年は妻が大病で入院したこともありそれを感じる年だった。
今まだ私は仕事をしているが第6編の「セカンド・ベスト」の夫のようではありたくない
と思った。それはその時になってみなければ分からないと思いながら。
他の力を借りながら各篇の内容と主題を、ネタバレを抑えつつ解説します。
『告知』収録の6篇タイトル
- 綿をつめる
- 罪滅ぼし
- 告知(表題作)
- アロエのチカラ
- いつか、あなたも
- セカンド・ベスト
全体像(共通テーマ)
- 医師は「どこまで真実を告げるべきか」
- 患者は「真実を知ることで救われるのか、壊れるのか」
- 家族は「本人のため」という名目で何を隠し、何を選ぶのか
正解のない問いを突きつけ、読者に判断を委ねる構造が一貫しています。
第1篇
◆ テーマ:告知は「善」なのか
医師が「正しい医療」を行おうとするほど、患者の人生を揺さぶってしまう物語。
病名を告げることが医学的には当然でも、患者の生き方・性格・覚悟を無視した告知が、必ずしも幸福をもたらさないことが描かれます。
「真実=親切」という単純な図式が崩される導入篇。
第2篇
◆ テーマ:家族による“隠蔽”の倫理
患者本人には病名を伏せ、家族だけが真実を知っている状況。
「本人のため」という言葉の裏に、
- 家族の恐怖
- 看取る側の身勝手
がにじみ出てきます。
告知しない暴力が静かに描かれる一篇。
第3篇
◆ テーマ:医師の自己保身
告知をめぐる判断が、実は
- 訴訟リスク
- 病院の方針
- 上司の目
といった制度的圧力によって歪められている現実を暴きます。
医師もまた「組織の中の弱い人間」である、という冷徹な視点。
第4篇
◆ テーマ:知る権利と知りたくない権利
患者自身が「知りたくない」と望むケース。
しかし医師としては告げなければならない――
この相反する価値の衝突が描かれます。
告知とは、患者の尊厳を守る行為なのか、奪う行為なのかという根源的問い。
第5篇
◆ テーマ:告知後の人生
病名を知らされた“その後”に焦点を当てた作品。
告知はゴールではなく、むしろ苦悩の始まりであることが示されます。
「告げた医師は責任を果たしたと言えるのか?」という問いが残る。
第6篇(表題作に近い位置づけ)
◆ テーマ:告知の本当の意味
これまでの5篇を踏まえ、
- 告げる側
- 告げられる側
- 見守る側
それぞれの立場が交錯する構成。
告知とは「情報伝達」ではなく、
人の生を引き受ける覚悟の問題だと浮かび上がります。
作品全体の評価・特徴
- ✔ 医療小説でありながら哲学的
- ✔ 勧善懲悪ではなく、誰も完全に正しくない
- ✔ 高齢社会・終末期医療の現実と直結
特に、「告知しなかった後悔」より「告知した後悔」のほうが描かれる点が、この作品の重さです。
作者のあとがきによると第7編「いつか、あなたも」以外はほぼノンフクションのようですが今年最もお勧めの小説です。
https://www.amazon.co.jp/%E5%91%8A%E7%9F%A5-%E5%B9%BB%E5%86%AC%E8%88%8E%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%B9%85%E5%9D%82%E9%83%A8-%E7%BE%8A/dp/4344427912





最近のコメント